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理想のパスタ
シリーズ「思い出の味」 第8回
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- 落語
カッペリーニ、芝生を添えて
「お待たせいたしました」
二皿のパスタがテーブルに運ばれてくる。女の子の前に置かれたパスタは、とてもおいしそうだ。少し平たい麺にエビとパプリカ、ソースは何かわからないがレモンの香りがしている。
次の瞬間、目の前に運ばれてきたものを見て声を失った。
私はスムーズに注文することに気を取られて、よく考えもせずに「カッペリーニ、バジルソース、アボカド、ドライパセリトッピング」を頼んでいた。
真緑――。
皿の上が、真緑なのである。まみどり。
苔? いや、ここはパスタの専門店だ。苔は出てこないし、苔ならばもう少し黄緑の部分もあるはずだ。
芝生? いや、ここはパスタの専門店だ。芝生は出てこないし、芝生ならもう少し土がついて茶色いところがあるはずだ。
真緑だ。
非の打ち所なく真緑。麺を一番細いカッペリーニにしたのも災いして、隅々までバジルソースが絡んでおり、麺の黄色い部分も全く見えない。唖然とする私を見て女の子が心配し、とんでもないことを言い出した。
「どうするの? それ……」
どうするの……だと? 可哀想に、目の覚めるような緑色に驚いて、これが食べ物だということを忘れちまったらしい。
「どうするのって……食うよ……」
「そう……」
「そうだよ。食べる。人は自らの言葉に責任を持たなくてはいけないからね」
私は、この真緑の物体を口に運んだ。正直、真緑過ぎて、私自身これがパスタなのかどうかを怪しむ気持ちもあった。
いっそ店員さんが「すみません! 手違いでした!これは裏庭の苔を裏庭の芝生で和えたものです!」と言ってくれたほうがまだ納得できると思った。
心からの笑顔で「ははあ、そうでしたか。ではカメにでもやってください」と対応できる。しかし、店員さんは来ない。これはパスタだからだ。しかも、私の注文通りに作られたパスタだ。
やめてくれ、もうたくさんだ。これ以上、この真緑の物体を直視したくない。目が良くなりそうだ。