21900のいただきます
シリーズ「思い出の味」 第1回
- 落語
師匠とオヤジさん
わたしにはふたりの師匠がいる。ひとりはオヤジさんである、歌司。もうひとりは四代目の桂三木助。
ただ、わたしの至らなさで四代目のところを破門になり、ふらふらしているうちに半年ほどした正月三日、師匠はあっという間に亡くなってしまった。すぐに田端──実父三代目三木助からの呼び名。落語家は所名で呼ばれる──に戻り、弔いの支度からお別れの会で弔辞を読み、師匠三木助を送り出したものの、いまの五代目が真打になるころまで勘気がゆりることはなかった。
それも師匠の甥が五代目襲名を期に、おかみさんとお姉さんによって勘気が解け、師匠が亡くなって以来、15年以上して三度、田端の敷居をまたぐことが許された。
田端の師匠宅は、階下が四代目宅、一階の納戸と二階が三代目三木助夫人・小林仲子ことおかみさん、四代目実姉、現五代目が暮らしていた。居間の隣に仏間があり、こちらも当時居間のように使っていた。
15年ぶりに線香をあげ、あらためてこれまでの不行跡を詫び手をあわせていると、おかみさんから
「ろく、アンタいつもここで、おかみさんのつくったごはん食べてたんだよ、おいしいおいしいって。それだというのに勝手にいなくなって」
当時の前座名が桂六久助。ろくすけだから、ろく。師匠も姉さんもおかみさんもそう呼んだ。