2025年7月の最前線(聴講記:神田こなぎ真打昇進披露興行、二ツ目時代、軍談ウィーク。そして「琴調の夏」を前にして)
「講談最前線」 第4回
- 講談
瀧口 雅仁
2025/07/13
聴講記③ ~軍談ウィーク
先月の「講談最前線」でも取り上げたが、7月の「津の守講談会」は「軍談ウィーク」の開催であった。その三日目となる最終日に飛び込んだ。番組は、以下の通り。
宝井琴人 「塚原卜伝・生い立ち」
神田おりびあ 「三方ヶ原軍記・信玄鉄砲」
宝井小琴 「猿飛佐助・生い立ち」
宝井琴鶴 「太平記・桜井の訣別」
田ノ中星之助 「沖田総司」
(お中入り)
宝井琴星 「関ケ原七本槍」
田辺銀冶 「太閤記・大徳寺焼香場」
トリを務めた銀冶も話していたように、三者三様の修羅場(しゅらば)の違いが楽しめた、連日満員を打ち出した好企画であった。一方で聴き手としての後悔は、初日に出演して時代ごとの軍談の読み分けを披露した宝井琴柳の高座を聴けなかったことだ。芸というのは、演じる方も楽しむ方も常に一期一会なのだ。

前に並んだ出演者たち。左から宝井琴凌、田ノ中星之助、
宝井琴星、田辺銀冶、宝井琴鶴
前講を務めたおりびあも、軍談で参戦。このところ、古典に新作に軍談と積極的に挑んでいる姿勢が高座に如実に表れている。今はまだ見え隠れする、読みの迷いが吹っ切れたときに次世代の軍談読みになるはずだ。
小琴の「猿飛佐助」も好演。声色を使うと言うのではなく、言葉の使い方で人物を演じ分けてみせる腕を持つ。9月に二ツ目に昇進するので、今後の高座に期待。
琴鶴は、読むのが三度目くらい(?)という「桜井の訣別」を。足利尊氏(あしかがたかうじ)の追撃を受け、桜井で息子の正行と別れ、湊川の戦いに向かう楠木正成(くすのきまさしげ)の姿を描いた「太平記」の名場面。読みは少し硬かったが、その分、言葉を大切にしながら、一言一句に熱を注ぎ込んでいく読み振りが光った。
この日は、拍子を使っての高座。本人曰く、学生時代に「太平記」のゼミを取ったものの……というところから生まれた“太平記コンプレックス”があるとのことだが、講談の原点にあるべき「太平記」の世界は、今後も琴鶴流で聴かせてほしい。
実は、この日一番の聴き物であったのは、大御所宝井琴星の「関ケ原七本槍」であった。マクラでは「軍談と侠客(きょうかく)をやらない人に、なんで声をかけるんだ!」としたり、自身の台本が銀冶に比べて薄い等々、琴星一流のケレン味あふれる話で笑わせた。
いざ、本題に入れば、話が進むにつれて、テンポや調子、間合いの取り方等、決して聴き手を置いていかない軍談のあり方や、“これが修羅場なんだ”と言わんばかりの手本をサラッと見せたところに、耳の肥えた常連を前にして修業を重ねてきた釈場(しゃくば)仕込みの軍談を感じることができた、貴重で贅沢な一席であった。
トリの銀冶はこれまた「太閤記」の名場面である「大徳寺焼香場」に挑んだ。一龍斎貞水が遺した「伝承の会」で宝井琴梅から習った一席だが、人物相関がややこしいことから、語呂(ごろ)を用いて読んで見せるなど、その遊び心が実は効果的であった。また、織田信長の葬儀での後継者争いになりかねない場面では緊迫感を保ちながら、さらに物語を締める役割である豊臣秀吉を貫禄たっぷりに読み上げた点に軍談の楽しさが表われ、たっぷり軍談が味わえた三日間の幕を下ろした。
軍談は、やっぱり面白い。
釣りが「鮒(ふな)に始まり、鮒で終わる」と言われるように、講談もまた「軍談に始まり、軍談で終わる」ということを強く感じられた会であった。そして、今回の企画は若手が牽引したという点にも意義があろう。今の講談を知るために、軍談の基を知ることのできる、今回のような企画が続いていけばいいのに!と改めて思っている。なお、9月22日には、前月に紹介した「軍談道場」のSeason5が始動する。お江戸両国亭で13時開演の予定。
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