2025年7月の最前線(聴講記:神田こなぎ真打昇進披露興行、二ツ目時代、軍談ウィーク。そして「琴調の夏」を前にして)
「講談最前線」 第4回
- 講談
瀧口 雅仁
2025/07/13
聴講記② ~二ツ目時代
二ツ目は、真打になるための準備期間という見方もある。芸の幅を広げ、自分なりの芸を見つけ、奥行きも深めていく。その間、約10年。この間をどう過ごすかで、真打になってからの道が決まってくるとしてもいいだろう。
先に紹介した神田こなぎも研鑽を重ねた講談協会主催の会に「二ツ目時代」がある。会場はお江戸両国亭で、開催月は「西向く侍」。つまり2・4・6・9・11月だ。その6月22日の会を覗いてきた。
実は前日に「予約が少ない!」という演者からの情報を得て、ならばと日頃の達引(たてひき)の強いところを見せた訳でもある(笑)。
出演者は、一龍斎貞奈、田辺凌天、田辺一記の三人。ここに前座の宝井優星と一龍斎貞介が加わった。あれ? いつもであれば二ツ目はもっといるのに……と思っていたら、この日に会があるのをみんなして失念していて、来られるメンバーが集まったというのだ。みんな、落ち着け(笑)。
前講と呼ばれる前座はこの日、二人。宝井優星は「柳生十兵衛・江の島漫遊」。徳川家光に間者になることを命じられた十兵衛が天竺を目指すと言って江戸を出発。品川で駕籠屋に捕まり、最後に知恵伊豆(ちえいず:松平信綱のこと)に出会うといった展開。確かで、かつ丁寧な読みで安定感あり。ただし、修羅場も忘れないでいてほしい。
一龍斎貞介は、「臆病(おくびょう)一番槍」。テンション高く、押しの強い高座で聴き手を圧倒させる。「床几(しょうぎ:折畳式の腰掛け)」を「将棋」と同じアクセントで読むのが気にかかるのは、最近、ほかの演者でも耳にすることだ。
二ツ目時代のトップは、田辺一記による「黒部の山賊」から『山のバケモノたち』。北アルプスの山小屋の運営に携わる伊藤正一が、山賊の一人である遠山林平との交流から聞き知る山の不思議な出来事の話であり、夏を前にした一種の怪異譚だ。一記という名の由来は、「記録を読みたい」という思いからついたと聞いている。ならば今後、今回のような黒部に起こる山の伝説とどう向き合っていくのか。一記のいい意味での物静かな語り口から、物語に潜む怖さや恐ろしさを読みとしてどう湧きあがらせていくのかに期待したい。
ここで落語家のゲストが入り、中入り後に田辺凌天は「妲己(だっき)のお百」から『海坊主の怪』を読んだ。悪女お百の魂胆とその悪行を、読みのスピードをいつもより抑えつつ、その世界観を描いていく。これまで比較的明るく華やかに感じられる講談が似合っていると思ってきたが、この手の女の悪事を描いた物語も合っていると感じさせた一席だ。

田辺一記。お江戸両国亭にて
この日のトリは、一龍斎貞奈で『長谷川謹介物語』。台湾縦貫鉄道建設に貢献し、「台湾鉄道の父」と呼ばれた人物の伝記で、これがすこぶる面白かった。台湾に講談の仕事で呼ばれた際に、台湾新幹線の中で創作した一席と貞奈は話していたが、鉄道の中という空間感(と言えば良いか)と時間に追われた(?)緊張感が作品制作にいい方向性を与えたのか、濃密でかつわかりやすい、そしてどこかノスタルジーを感じさせる一席に仕上がっていた。
貞奈の読みは、リズム感やテンポを活かして読んでいくというより、話の肝を抑えながら、どこを聴いてほしいのかを考え、言葉の強弱や緩急を自在に用い、そこから話の波を作っていくところにある。この日の高座でも、長谷川謹介の偉業を確かな形で読みながら、その歴史的事実に対する貞奈の考えは、聴き手に同意を求めるがごとくに軟らかく読んでいた。
実は、今回はじめて長谷川謹介なる人物を知ったのだが、講談という芸を通して、また新たな歴史とその歴史を作った人に出会うことができた。舞台を台湾にした講談としては、大先輩の一龍斎貞花が「李登輝(りとうき)伝」や、台湾にダムを建設した「八田與一(はったよいち)」を送り出して好評を得ているが、その作品と同じように、これから先、読み込んでいくことで貞奈の代表作となり得るだろう。
一件。この日、中入り前に上記の事情もあって、落語家のゲストがあった。聴き手として、講談に対する集中力と言えばいいだろうか、それが途切れてしまうように感じた。ゲストの演者が悪いと言うのではない。出演者が足りなければ、例えば、その日、先に上がった講釈師が二度上がりをする等の対応でも良かったのではないか。そうした番組の流れを考えるのも、こうした勉強会での意義と言えよう。次回の二ツ目時代は9月22日の開催で、宝井小琴の二ツ目昇進祝いを兼ねる。
いま読まれています!
「エッセイ的な何か」 第13回
6月26日は、露天風呂の日 →全裸のおじさんに囲まれた“おじさん”を見つめる男の苦笑
~湯けむりの向こうに、シュールな光景があった
三笑亭 夢丸
2026/06/24
シリーズ「思い出の味」 第13回
二つの乳に育てられし
~木綿豆腐に、絹ごし豆腐、豆乳、絹揚げ、おからの炊いたん!
月亭 天使
2025/10/15
「コソメキネマ」 第十四回
火曜日の提灯
~浪曲を軸に、移民社会の混沌と愛憎を描く映画『カポネ大いに泣く』をご紹介
港家 小そめ
2026/06/22
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第15回
自分らしく、まっすぐに 神田菫花(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/10/28
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第14回
〈書評〉 新宿末広亭 令和の定点観測 (長井好弘 著)
~笑いとともに、芸人の日常と変化、寄席の温かさを描く貴重な記録本
杉江 松恋
2026/06/20
「エッセイ的な何か」 第12回
5月11日は、ご当地スーパーの日 →土地の味を追い求める男の旅情
~ご当地スーパーを巡る旅は予期せぬことの連続である
三笑亭 夢丸
2026/05/24
「くだらな観音菩薩」 第14回
烏瑟沙摩明王(うすさまみょうおう)
~叱るより先に、話を聞いてあげたい
林家 きく麿
2026/06/16
「座布団の片隅から」 第14回
旅路(上)
~噺家3人の珍道中! 笑いと涙と二日酔いの落語ツアー前半戦
三遊亭 好二郎
2026/06/07
シリーズ「思い出の味」 第11回
食べ物が詰まった、師匠桂三金の思い出と棺桶
~焼肉は落語
桂 笑金
2025/08/17
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第16回
自分らしく、まっすぐに 神田菫花(中編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/10/29
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第14回
〈書評〉 新宿末広亭 令和の定点観測 (長井好弘 著)
~笑いとともに、芸人の日常と変化、寄席の温かさを描く貴重な記録本
杉江 松恋
2026/06/20
「コソメキネマ」 第十四回
火曜日の提灯
~浪曲を軸に、移民社会の混沌と愛憎を描く映画『カポネ大いに泣く』をご紹介
港家 小そめ
2026/06/22
「二藍の文箱」 第3回
前座見習に師匠見習
~今年の春、弟子を取った
三遊亭 司
2025/08/02
「浪曲案内 連続読み」 第12回
みちのくツバメ旅
~岩手の地で咲いた、ご縁の花。笑って泣いて感謝する、旅の物語
東家 一太郎
2026/06/18
「くだらな観音菩薩」 第14回
烏瑟沙摩明王(うすさまみょうおう)
~叱るより先に、話を聞いてあげたい
林家 きく麿
2026/06/16
「エッセイ的な何か」 第13回
6月26日は、露天風呂の日 →全裸のおじさんに囲まれた“おじさん”を見つめる男の苦笑
~湯けむりの向こうに、シュールな光景があった
三笑亭 夢丸
2026/06/24
「講談最前線」 第20回
2026年6月の最前線 【前編】 (年季明け! 旭堂左燕インタビュー)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/06/15
シリーズ「思い出の味」 第13回
二つの乳に育てられし
~木綿豆腐に、絹ごし豆腐、豆乳、絹揚げ、おからの炊いたん!
月亭 天使
2025/10/15
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第24回
講談界を駆ける一鶴イズムの継承者 田辺銀冶(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/02/03
「講談最前線」 第21回
2026年6月の最前線 【後編】 (聴講記:名古屋・大須演芸場定席 / 講談『太閤記』小考③)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/06/16
月刊「シン・道楽亭コラム」 第14回
小学校で10年間、落語を読み聞かせしてわかったこと ~子どもたちにウケた噺ベスト3+番外編
~子どもたちは正直だった。だから落語の本当の面白さが見えた
シン・道楽亭
2026/06/10
「浪曲案内 連続読み」 第11回
浦安の風が吹いている
~かつて浦安にあった寄席と浪曲師の物語
東家 一太郎
2026/05/20
「座布団の片隅から」 第14回
旅路(上)
~噺家3人の珍道中! 笑いと涙と二日酔いの落語ツアー前半戦
三遊亭 好二郎
2026/06/07
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第38回
新しい響きを持つ講談への挑戦 神田おりびあ(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/05/30
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第14回
ウケるごとに極まっていくその美貌
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/06/03
「二藍の文箱」 第13回
地図にない街、地図にない店
~京都、新宿、上野、浅草、池袋。師匠と行った名店の記憶
三遊亭 司
2026/06/02
「芸人本書く派列伝 クラシック」 第13回
〈書評〉 浅草木馬館日記 (美濃瓢吾 著)
~芸を支えた建物の記憶と不思議な魅力
杉江 松恋
2026/05/29
「令和らくご改造計画」
第十一話 「塀の中」
~最近の前座さんたちは、時々おかしい
三遊亭 ごはんつぶ
2026/06/13
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第14回
〈書評〉 新宿末広亭 令和の定点観測 (長井好弘 著)
~笑いとともに、芸人の日常と変化、寄席の温かさを描く貴重な記録本
杉江 松恋
2026/06/20
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第13回
〈書評〉 未来の大看板がここにいる いま、若手の落語家・講談師・浪曲師が面白い (宮信明 著 / 橘蓮二 写真)
~若手76人の魅力を研究者の視点と写真家の感性で活写した“読む寄席”
杉江 松恋
2026/05/21
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第9回
優雅な航海中の後悔を公開
~“憧れの仕事”から繋がる伏線が鮮やかな船旅エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/04/13
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第5回
落語家の夢
~俺の目は、まだ濁っていない!!!
桂 三四郎
2025/11/27
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
「艶やかな不安の光沢」 第1回
謂れなきものたちの飛躍
~年始からとちってしまった芸人の胸のうち
林家 彦三
2026/02/12
「令和らくご改造計画」
第六話 「若手人気落語家殺人事件 【事件編】」
~古典派と新作派の溝!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/01/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第6回
運と皆様のおかげです
~人間は弱い生き物です
桂 三四郎
2026/01/01
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第8回
微笑みながら中指を
~笑えて震える、ご近所交流録! マトリックスばあさん、降臨!!
桂 三四郎
2026/02/25
シリーズ「思い出の味」 第19回
雪のココア
~内弟子時代に憧れた甘い味
柳家 わさび
2026/01/13
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第7回
世間せまないか?
~落語家を多数輩出する片田舎、神戸の垂水
桂 三四郎
2026/02/01
編集部のオススメ
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第13回
〈書評〉 未来の大看板がここにいる いま、若手の落語家・講談師・浪曲師が面白い (宮信明 著 / 橘蓮二 写真)
~若手76人の魅力を研究者の視点と写真家の感性で活写した“読む寄席”
杉江 松恋
2026/05/21
「浪曲案内 連続読み」 第11回
浦安の風が吹いている
~かつて浦安にあった寄席と浪曲師の物語
東家 一太郎
2026/05/20
「令和らくご改造計画」
第十話 「オチログ」
~前座が作った落語家レビューアプリ「オチログ」を巡る狂騒。ブラックユーモア満載の笑撃作!
三遊亭 ごはんつぶ
2026/05/15
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
月刊「シン・道楽亭コラム」 第13回
シン・道楽亭、誕生前夜から今へと続くキャリー・ザット・ウェイト Part.3
~橋本さん亡き後に立ちはだかった超大型の壁
シン・道楽亭
2026/05/10
「座布団の片隅から」 第13回
声優
~話題の人気アニメ『あかね噺』で声優デビューさせていただきました!
三遊亭 好二郎
2026/05/07
「ずいひつかつどお」 第10回
なぽりたんといっしょ
~つまり、ナポリタンはボヘミアン・ラプソディなのである
立川 談寛
2026/05/04
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第13回
芸人、変な人多い
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/05/03
「二藍の文箱」 第12回
午後の逡巡
~その街に息づいた食堂で、ひとり手酌もまた愉し
三遊亭 司
2026/05/02
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【前編】
~小さん師匠の「おめでとう」から始まる新しい年
話楽生Web 編集部
2026/01/25