外題付 ~浪曲は天下を取った芸能だ!
東家一太郎の「浪曲案内 連続読み」 第1回
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浪曲は、2人で物語を語っていく日本のミュージカル (画:原えつお)
三味の音色にひと声乗せりゃ
三味(しゃみ)が鳴る。
深く息を吸った浪曲師の口元から、 馬の背を 分ける夕立 入道雲が
腹から絞った吟のある声。まるで映画のファーストカットのように脳裏に景色が浮かんでくる。
キレの良い音締(ねじ)め、ホォーッという曲師の掛け声とともに、 ひと降り降って カラリと晴れりゃ
あうんの呼吸で飛び出すその高い甲(カン)の声にハッと目を見開き、 青葉若葉が 目に染みる
その声は脳に心地よく響く。
遠く赤城や 榛名の峰が 空に浮き出すぅー
言葉と節、三味の音を聴くにつれ、山々の風景が目の前に浮かび上がってくる不思議。
中山道(なかせんどう)
活発な三味線に乗せた爽快な声節に、いてもたってもいられずに、拍手をすれば、名調子! 傍(そば)の常連客から声が掛かった。そう、そこはもう中山道。
浪曲ほど速いものはない。三味の音色にひと声乗せりゃ、あなたはもう上州高崎に居ると云う、これが浪曲(ろうきょく)、浪花節(なにわぶし)!
浪曲師の東家一太郎と申します
例に挙げたのは、「弥作の鎌腹(やさくのかまばら:忠臣蔵物の1つ)」という演目の最初の節(ふし:歌のようなもの)。
外題(げだい:浪曲のタイトルのこと)に付けるから外題付(げだいづけ)と云います。映画のプロローグ、番組のオープニングであり、スターウォーズの「a long time ago……」や「ドドドリフの大爆笑」のようなものです。
ちなみに は、「いおりてん」と云って、この後は節ですよ、という記号です。
外題付のはじめの3行、このネタですと ひと降り降って カラリと晴れりゃ
までの節を聞けば、その浪曲師が上手いか下手かわかるというくらい、外題付は重要なもの。
最初に「おっ、良いな」と思ってもらえないと、最後までは聞いてもらえません。何事もそうですね。文章もそう……だと思うのです。何しろ今回、話楽生Webで初めて連載に挑戦させていただきます。
……はっ、ご挨拶が遅れました。私、浪曲という芸を商売にしております。肩書きは浪曲師、名前を東家一太郎と申します。きょうこうばんたん、バタバタバタと、以後お見知りおきのほど、宜しくお願い申し上げます。