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メタバースと落語

「古今亭佑輔とメタバースの世界」 第1回

伝統芸能の課題

 メタバースでは、みんな「なりたい自分」、理想の姿形、声を作り出すことができる。みんなが思い思いの表現や生き方ができる――それがメタバースの特徴であり、最大の魅力である。

 つまり、現実世界でのギャップに悩んでいる人も、この世界でならば自分のあるべき姿を表現できるというわけだ。従来のSNSより、個人の個性や思想が立体的に表現されるソーシャルネットワークのようなものだと自分は考えている。

 さて、もともと落語がやりたくてVRを始めた自分の場合は、アバターも自分の顔に寄せて作ってもらった。声も地声だし、キャラクターもどちらかというと古今亭佑輔として活動している時と大差はない。自分の場合、何か違う表現をするのではなく、仮想空間を「古今亭佑輔として活動するための幅を広げる場所」と捉えている。

 今や若い人たちの周りには娯楽があふれ、落語は身近なものでは決してない。かつて身近にあった「大衆的な娯楽」ではなく、むしろ「日本の伝統芸能」として、敷居の高いものとして見られてしまっている。

 コスパ(コストパフォーマンス)やタイパ(タイムパフォーマンス)を非常に重視する世代にとって、自分で面白さを発見しないことには、わざわざチケットを買い、寄席に足を運ぶなんてことはしてくれない。

 10年後、20年後のことを考えれば、やはり新たな客層にアプローチしていくことは必要不可欠ではないか。間口は広くあるべきだと思っていた自分にとって、VRとの出会いは衝撃であった。

 もちろん落語は奥が深く、自分にはまだ到底到達できない境地があるのは、痛いほど分かっている。その点に関しては、日々地道に努力をしていく所存だ。

 しかし、お客様がいなければ、どんなに芸を磨いても意味がない。実際にVR落語を始めてみて、VRユーザーと落語の親和性が非常に高いことに驚いた。落語のストーリーや登場人物に共感してもらえることが多く、そうした「落語特有の笑い」に対して非常に前向きな人が多い。

 また、好きなことや人を応援したいという熱量も非常に高い。

たくさんのお客様が来場され、仮想空間の寄席は満員に!