伝統を纏い、革新を語る 神田陽子(中編)

「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第12回

伝統を纏い、革新を語る 神田陽子(中編)

インタビュー中の一枚(筆者・撮影)

瀧口 雅仁

執筆者

瀧口 雅仁

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師匠への想い

陽子 うちの師匠は1ミリも人間的に嫌なところがない、善の人だなと改めて思っています。それにダンディで、いつも穏やかで、自分のことを差し置いても、私たちのことをよろしくってお願いをしてくれる。稽古に関しても、「とにかくそっくりにやりなさい。模倣だ」って、だから「師匠にそっくりだ」と言われたこともありました。でも、師匠とそっくりで何が悪いんだと思っていました。師匠も「個性は自然に出てくるから、ともかく型をきちんと。高低をつける、緩急をつける、畳み込み、歌い調子を」と、とにかく徹底して教えていただきました。

 私は早稲田大学へ入学して音声研究のゼミへ入ったので、講談の熟達者として師匠のテープを起こしたことで、熟達者と初学者の音声の比較ができたんです。それまで講談の音声に関する研究はなかったので、それができたのは良かったなと思います。

陽子 本当に、心から良かったと思っています。今も会いたいもん。

陽子 あります。松鯉兄さんが人間国宝になって、伯山さんの活躍があって、今の講談界の隆盛を見せたいですね。

陽子 寄席で演じる『海賊退治』とか、連続物の『徳川天一坊』が好きでした。『青龍刀権次』も好きだったんですが、私たちには女だからって、『女天一坊』とか『安政三組盃』とかを教えていただきました。他にも師匠は『中江兆民(なかえちょうみん)』とか、それこそ『レ・ミゼラブル』とか幅広かったですよね。

 幻の講談でキリスト教の話なんですけど、『ミサプールへの道』というのがあって、NHKの放送だったんですが、大先輩方との競演で、とにかく稽古をして臨んだら褒められたと言ってましたが、それを聞いてみたいですね。