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青春の終わりに入門。青春の始まりの入門 (前編)

鈴々舎馬風一門 入門物語

恐い師匠と優しいお内儀さん

 私は遺憾なる偏差値教育の時代に育ちまして、どちらの師匠に弟子として取ってもらうか……熟考してしまったのですが、普段の寄席、平日の新宿末廣亭、うちの師匠も氣張ることなく、「(落語協会々長になるにあたって)皆様方のお力添えで……屹度……」と、高座を降りたとある日、この師匠はひょっとして人間の善い師匠ではあるまいか?と閃きました。

 すると人間は違った角度からものを考えます。恐い師匠だから近づかないようにしやう→内に恐い師匠があれば、外は優しい師匠ばかりとなる。これだ。と、師匠宅に伺うことゝいたしました。しかしながらやはりおとろしいので、やはり最初に伺いましたのは師匠馬風の在宅ではなさそうな時間を見計らって、訪問のおしるしを持参いたしました。夏の日でございます。

 後日あらためさせていただきますと、お内儀さんが「この間、見えた方ですか?」と応対された。若くて綺麗なお内儀さんだ。違う。聞いていたのと違う状況にまず驚く。

 師匠宅を紹介するテレビ番組で、内海好江師匠が「ここはお内儀さんがいいから!!」と言はれていた。お内儀さんがいい+師匠の体格……よって京塚昌子さんのような体躯のよいどっしりとしたお内儀さんを想定しておりんしたが。屹度、お内儀さんは優しい方のようだ。まずは素晴らしきこと。

 応接間の重厚な銘木の切り株のテーブルの上に奥州堂のくずきりとお茶を出していただきました。一昨日のことのように小保方晴子さんである。しばしの間があり、鈴々舎馬風が「おぅ、おぅ」と、お、と、ほの中間の音で、横に蟹のように歩いて来られて、戦国時代の大名のようにドスンと座られた。お屋形様は笑っておられる。

 いくつかの質疑応答の間に、すでにお内儀さんとの間で入門許可既定事実のようになってをり。旭日昇天なる心もち。すでに何時から来るのか尋ねられるのですが、この期に及んでも1日遊すびたい、と思う不可思議。師匠は笑っておられたが、「いゃこの髪型がさ……」。

 やった!!
 当たった!!

 この時、齢27でございます。年齢が障って入門を断られるのを防ぐために、何やら印象を良くする必要がある。頭頂部だけ長髪にして、後ろで括る。前髪に1本、三つ編みをつくり、後ろで束ねる。ネイティブ・アメリカン風。師匠にウケたご様子。

 やった。
 よかった。

 なぜもっと早くに門を叩けなかったのであらうか。

(後編に続く)