〈書評〉 実録浪曲史 (唯二郎 著)
「芸人本書く派列伝 クラシック」 第3回
- 浪曲
- Books

杉江 松恋
2025/07/30

浪曲本の多さとその背景
浪曲本は意外と多い。
三大話芸と言われる中で最も多いのはもちろん落語だが、次いで浪曲である。講談の場合、速記は多いのだが、この芸能について語った本は意外と少ない。浪曲は逆に芸談や研究書が多いのである。これは私財を投げうって浪曲研究に尽くした芝清之(しばきよし)という人の功績が大きい。
芝の関連書以外でも、代表的な浪曲の外題(演目)はどんなものかが知りたければ、橋本勝三郎『「森の石松」の世界』(新潮選書)という名著があり、全盛期の浪曲師がどのような日々を送っていたかという点では梅中軒鶯堂(ばいちゅうけんおうどう)『浪曲旅芸人』(青蛙選書)が非常に興味深い一冊である。
では通史を知るにはどうしたらいいか、と言われると少し迷ってしまう。もちろん、正岡容(まさおかいるる)『定本日本浪曲史』(岩波書店)という大著があり、浪曲研究の必読書ではあるのだが、少々困ったところがある。正岡好み、とでも言うべき調子で貫かれており、記述は列伝形式に近い。それぞれの浪曲師について造詣深く語られているのだが、通史としては昭和以降の記述が薄く、現代と接合していないのである。また、膨大な量の固有名詞が出てくるため、とっつきにくいという難もある。
そこでお薦めしたいのが、唯二郎(ゆいじろう)『実録浪曲史』(東峯書房)だ。『定本日本浪曲史』よりぐっと入手難易度は上がってしまうが、明治から昭和にかけての通史を頭に入れたければ、この本より良いものはない。浪曲はレコードやラジオといったメディアの発展にうまく乗って勢いを増してきた芸能だが、そうした方面のデータも記載されているのが強い。
浪曲の進化と女流の台頭
第一部第一章「明治時代(一八六八~一九一二)」は簡潔にまとめられており、浪曲中興の祖・桃中軒雲右衛門(とうちゅうけんくもえもん)の登場で終わっている。次の第二章「大正時代(一九一二~一九二六)」から記述は厚みを増し、「明治・大正女流列伝」といったトピックごとの読み応えがあるコラムも挿入されるようになっていく。
通史の記述を中断して女流浪曲師の話題を取り上げているのは一見話が横道に逸れているかのようだが、実はそうではない。浪曲と講談・落語の大きな違いの一つとして、かなり初期の段階で女性がスターとして立てられていたことが挙げられる。単に起用されただけではなく、座長の地位にも就いていた。
少女浪曲師として戦前に一世を風靡した鈴木照子(すずきてるこ)などは、13歳でハワイに巡業したばかりか、自分の親ほどの年齢の弟子まで取っている。性別や年齢に関係なく、声節さえよければ看板として売り出すという、良くも悪くも節操のない部分がこの芸能にはあった。そうしたことが女流という切り口から見えてくるのだ。脱線に見える『実録浪曲史』の記述は、通して読むと浪曲を立体的に捉えることに役立つことがわかる。
いま読まれています!

「二藍の文箱」 第5回
異国の路地、迷子の入口
~誰もしらない自分に出会う旅

三遊亭 司
2025/10/02

「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第3回
言霊のブーメラン
~上方落語の打ち上げよ、永遠なれ!

桂 三四郎
2025/09/25

「酒は“釈”薬の長 ~伯知の日本酒漫遊記~」 第3回
三合目 ~京都漫遊記 〈壱〉
~幕末ロマンと伏見の名酒を楽しむ、幸せな旅

松林 伯知
2025/10/01

「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第4回
〈書評〉 悪いものが、来ませんように (芦沢央 著)
~壊れゆく絆と親子の愛

笑福亭 茶光
2025/09/30

「テーマをもらえば考えます」 第2回
名月
~世の中で最強なのは団子だよね!!

三遊亭 天どん
2025/09/30

「まだ名人になりたい」 第4回
そして現実へ
~私はまだ人から褒められたいのです!

柳家 さん花
2025/08/01

「まだ名人になりたい」 第3回
泣きっ面にう○○
~私はゴッホだ! あなたもゴッホだ!

柳家 さん花
2025/07/02

「二藍の文箱」 第4回
かたばみ日記 令和7年 夏
~暑い夏もまた愉しい

三遊亭 司
2025/09/02

「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」第13回
伝統を纏い、革新を語る 神田陽子(後編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー

瀧口 雅仁
2025/09/29

「ずいひつかつどお」 第4回
まんまるおつきさま
~月の美しさと伝えられない想い

立川 談吉
2025/09/27

「テーマをもらえば考えます」 第2回
名月
~世の中で最強なのは団子だよね!!

三遊亭 天どん
2025/09/30

「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第4回
〈書評〉 悪いものが、来ませんように (芦沢央 著)
~壊れゆく絆と親子の愛

笑福亭 茶光
2025/09/30

「酒は“釈”薬の長 ~伯知の日本酒漫遊記~」 第3回
三合目 ~京都漫遊記 〈壱〉
~幕末ロマンと伏見の名酒を楽しむ、幸せな旅

松林 伯知
2025/10/01

「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第3回
言霊のブーメラン
~上方落語の打ち上げよ、永遠なれ!

桂 三四郎
2025/09/25

「二藍の文箱」 第5回
異国の路地、迷子の入口
~誰もしらない自分に出会う旅

三遊亭 司
2025/10/02

「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」第13回
伝統を纏い、革新を語る 神田陽子(後編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー

瀧口 雅仁
2025/09/29

「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第11回
伝統を纏い、革新を語る 神田陽子(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー

瀧口 雅仁
2025/09/27

「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第12回
伝統を纏い、革新を語る 神田陽子(中編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー

瀧口 雅仁
2025/09/28

「二藍の文箱」 第4回
かたばみ日記 令和7年 夏
~暑い夏もまた愉しい

三遊亭 司
2025/09/02

「まだ名人になりたい」 第4回
そして現実へ
~私はまだ人から褒められたいのです!

柳家 さん花
2025/08/01

「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第11回
伝統を纏い、革新を語る 神田陽子(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー

瀧口 雅仁
2025/09/27

「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第4回
〈書評〉 悪いものが、来ませんように (芦沢央 著)
~壊れゆく絆と親子の愛

笑福亭 茶光
2025/09/30

「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第12回
伝統を纏い、革新を語る 神田陽子(中編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー

瀧口 雅仁
2025/09/28

「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」第13回
伝統を纏い、革新を語る 神田陽子(後編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー

瀧口 雅仁
2025/09/29

「芸人本書く派列伝 クラシック」 第5回
〈書評〉 古今東西落語家事典 / 東都噺家系図
~落語界の不思議を紐解く、名著二冊

杉江 松恋
2025/09/29

「すずめのさえずり」 第三回
恩人について
~佐竹雅昭さんが教えてくれた本当の強さ

古今亭 志ん雀
2025/09/26

「テーマをもらえば考えます」 第2回
名月
~世の中で最強なのは団子だよね!!

三遊亭 天どん
2025/09/30

「ずいひつかつどお」 第4回
まんまるおつきさま
~月の美しさと伝えられない想い

立川 談吉
2025/09/27

「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第3回
言霊のブーメラン
~上方落語の打ち上げよ、永遠なれ!

桂 三四郎
2025/09/25

「マクラになるかも知れない話」 第二回
栗と私
~栗から考える人生の機微

三遊亭 萬都
2025/09/24

鈴々舎馬風一門 入門物語 第15回
捨て犬のブルース (前編)
~16歳の高校生、噺家の弟子になる!

柳家 平和
2025/09/04

「令和らくご改造計画」
第二話 「集まれ! 蘊蓄おじさん」
~落語の未来を守るため、前座が立ち上がる!

三遊亭 ごはんつぶ
2025/09/12

月刊「シン・道楽亭コラム」 第5回
落語愛を、次世代へ ~あの日の感動を、息子も知った
~はじまりは、いつもあの時の「新鮮な気持ち」

シン・道楽亭
2025/09/10

鈴々舎馬風一門 入門物語 第16回
捨て犬のブルース (後編)
~『タイガー&ドラゴン』の世界へ!

柳家 平和
2025/09/05

「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第5回
夏が終わるさみしさなんて宇宙までふっとばしたい
~ハプニング満載の浪曲ライフ!

東家 千春
2025/09/03

「浪曲案内 連続読み」 第5回
君は『浪曲天狗道場』を知っているか
~浪曲の「素人のど自慢番組」がラジオを席巻した時代

東家 一太郎
2025/09/15

月刊「浪曲つれづれ」 第5回
2025年9月のつれづれ(富士実子、広沢美舟、国本はる乃、玉川奈々福、それぞれの躍動)
~銀座の地下で響く浪曲の魂

杉江 松恋
2025/09/09

「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第3回
言霊のブーメラン
~上方落語の打ち上げよ、永遠なれ!

桂 三四郎
2025/09/25

「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第11回
伝統を纏い、革新を語る 神田陽子(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー

瀧口 雅仁
2025/09/27

「令和らくご改造計画」
第一話 「危機感をあなたに」
~笑撃のストーリーが今、始まる!

三遊亭 ごはんつぶ
2025/08/12
編集部のオススメ

「酒は“釈”薬の長 ~伯知の日本酒漫遊記~」 第3回
三合目 ~京都漫遊記 〈壱〉
~幕末ロマンと伏見の名酒を楽しむ、幸せな旅

松林 伯知
2025/10/01

「マクラになるかも知れない話」 第一回
夏の日の少年
~僕たちは、小さな冒険者だった

三遊亭 萬都
2025/08/24

シリーズ「思い出の味」 第11回
食べ物が詰まった、師匠桂三金の思い出と棺桶
~焼肉は落語

桂 笑金
2025/08/17

「令和らくご改造計画」
第一話 「危機感をあなたに」
~笑撃のストーリーが今、始まる!

三遊亭 ごはんつぶ
2025/08/12

「二藍の文箱」 第3回
前座見習に師匠見習
~今年の春、弟子を取った

三遊亭 司
2025/08/02

「くだらな観音菩薩」 第2回
阿修羅
~私は良い人なので、お気軽に話しかけてくださいね!

林家 きく麿
2025/06/16

月刊「シン・道楽亭コラム」 第2回
席亭への道 ~服部、落語に沼る人生
~還暦過ぎからが人生

シン・道楽亭
2025/06/10