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2025年8月の最前線 【後編】 (講談入門① ~最初に“生で”聞くなら、どうしたらよいか)
「講談最前線」 第5回
- 講談

約70年の古商店を改修し、2019年にオープンした「墨亭」
講談はいつも面白い。そして講談はいつも新しい――。
講談の魅力って? 講談ってどこで聴けるの? どんな講釈師がどんな講談を読んでいるの?と、それにお応えするべく、注目したい講釈師や会の情報、そして聴講記……と、講談界の「今」を追い掛けていきます。(2025年8月の前編/後編のうちの後編)
講談入門① ~最初に“生で”聞くなら、どうしたらよいか
拙著『講談最前線』(彩流社)でも記したが、「最初に講談を聴くとしたら、誰がおススメですか」とか、「どうしたらいいですか」と尋ねられることがあるが、その応えはなかなか難しい。
乱暴な応えをすれば、「とにかく、誰でも、何でも、どこでもいいから飛び込んで聞いてみたらどうですか」になるのだが(最終的にはこれが正答かも知れない)、やはり何事もファーストインプレッションが大切なので、立場上、無責任なことも言えない。それに、もし的を外したらどうしようとか考えてしまうので、健康に悪い。
これが歌舞伎や芝居であれば、「“わかりやすい”“馴染みやすい”おススメの演目から鑑賞してみては?」とすることができるが、講談や落語は基本的に演目を目指して聴きに行けるものではない。「今日は『天保水滸伝』を聴きたいなあ」と思っても、大きな会や独演会などでネタ出しされている場合ならまだしも、その演目を狙って寄席に行くとか、講談の会に行くというわけにはいかない。
そうなるとまずはCDやDVDでとなるが、これまたおススメできる程の数が発売されておらず、あったとしても過去の名人の物が多いので、敷居が高く感じられてしまう可能性もある。今ならYouTubeもあるが、権利的に怪しい音も散見されるし、ジッと画面の前で講談を聴くというのも、どこか中~上級者の楽しみのような気もする。
そこで、あくまでも私的に考える、初めて講談を聴くという人へのおススメを4点紹介したい。
[1] 落語色物定席に講釈師が出ていることを確認し、まずは寄席で聴く
都内に4軒ある落語色物定席(鈴本演芸場・新宿末広亭・浅草演芸ホール・池袋演芸場といった、落語とそれ以外の芸を楽しめる寄席)には、講釈師が顔付けされることも多い。寄席の一人あたりの持ち時間は15分前後であるので、気軽に楽しむことができる。
長い筋や、ややこしいストーリー物を最初から聴きに行くと、苦手意識を植え付けられてしまう可能性もあるが、寄席での話は簡潔にまとめられたものや、いわゆる長い話の抜き読み(名場面を抽出した読み)も多い。
また、硬い読み物(軍談や歴史物)よりも、『徂徠豆腐(そらいどうふ)』や『お富与三郎(おとみよさぶろう)』といった、落語で言えば、長屋を舞台にした人情噺(≒世話物)であったり、武士や武芸者が登場する『海賊退治』や『宮本武蔵』といった、どちらかというと、その滑稽な姿が描かれる作品が多い。
更に、主に会話で進められる落語と、演者の地の語りで進められる講釈の違いも味わえ、その楽しさを知ったら、次に講談の会や講談の定席に足を運ぶのもいい。
落語協会であれば、宝井琴柳、宝井琴調、神田茜が出演し、夏と冬には琴調が主任を務める公演もある。落語芸術協会であれば、人気者の神田伯山や人間国宝の神田松鯉、そして[2]で記す女性講釈師の高座が楽しめる。