現実世界との相互作用

古今亭佑輔とメタバースの世界 第5回

現実世界との相互作用

Cluster内に再現された青山学院大学キャンパスでの一枚

古今亭 佑輔

執筆者

古今亭 佑輔

執筆者プロフィール

現実の制限

 落語は日本各地、時には海外にも赴き、演芸を披露する。最近は配信なども盛んであるが、ライブ感あってこそのものである。

 しかし時に、我々には行動の制限が生まれる。それはコロナのようなウイルスの蔓延の場合もあれば、怪我や病気での入院などである。皆様もコロナ禍では大きな打撃を受けたことだろうが、落語界では全てが止まってしまった。こういう仕事の儚さを感じざるを得なかった。

 それは観る方にも同じことが言えるであろう。制限があっては劇場や寄席に赴き、落語を楽しむこともままならない。

 自分も現在ある意味、制限を抱えている。個人的な話で誠に恐縮だが、妊娠である。できる限り仕事は休まないようにするつもりではあるが、どうしようもない時もある。

 そんな自分にとってVR(仮想現実)は、嬉しい誤算であった。そもそも妊娠を予期して始めたものではないが、行動に制限がある今、VRであれば自宅からでも落語の公演をリアルタイムに届けることができる。

 VRを始めて良かったと心から思えた理由の一つである。

現実世界との交流

 身体を自由に動かせないということは、ある程度、現実世界との孤立を意味している。落語家というものは常に刺激を求め、外との交流を遮断しないことで新しい作品を生み出したりする原動力とする。

 自分も妊娠前は自由自在に動き回り、他者と交流をし、経験を積んで、それを枕(落語に入る前の世間話)や新しい怪談落語創作への足がかりとしていた。

 ただし、妊娠中はそうはいかない。身体の安全を何より第一に考えなくてはならない。非常に嬉しいことであるが、今まで通りにはできないことがある。

 しかし、ここで大いにVRの魅力を発見することができた。まずは新規のお客さんがVRの垣根を超えて落語を観に来てくださること。これまでも多くのお客様が足を運んでくださった。それは自分にとっても新しい出会いであり、何より嬉しいことである。

 そして既にVRには様々な企業、団体が参入している。それらの団体とのコラボレーションである。そこには寧ろ現実では知り合えないような様々なご縁があった。