NEW

雪のココア

シリーズ「思い出の味」 第19回

雪のココア

今も思い出す、懐かしい味と、かけがえのない時間の記憶

柳家 わさび

執筆者

柳家 わさび

執筆者プロフィール

私は三年六ヶ月、“内弟子”をやらせていただき
残りの一年は“通い弟子”の
計四年六ヶ月の前座修行期間だった。

“通い弟子”の期間は、朝、師匠宅へ行き、掃除をすませて
朝ごはんをいただき、寄席や落語会へ向かう。
昼帯のおつとめが終わり次第、師匠宅に戻ったり
夜、仕事があった場合も門限の夜十時には師匠宅へ戻る。
それから夜零時か、それ過ぎくらいには
師匠宅近所にある自分が借りているアパートに戻ってよかった。

この“通い”は自由度が大変高く
夜好きなタイミングでトイレに行けたり
夜コンビニに行けるようになったりで
まるで状況が変わったので
「これで本当に修行になるのだろうか?」
と思いながら一年を過ごした。
二ツ目に昇進した時より、“内弟子”から“通い”になった時の方が
何倍もドーパミンが出た。
それが“通い”だ。

“内弟子”というのは
師匠の家に師匠と一緒に住むことである。
私の場合は、もちろん“弟子の部屋”などはなく
木造二階建て、その二階奥にある
四畳半の着物の部屋で寝かせていただいていた。

起きている時の待機場所は
右から「なれるな、あまえるな、くつろぐな」という
文字が書かれたスローガンが貼られた台所の勝手口
(弟子は玄関を利用してはいけないので、この勝手口から出入りする)か
勝手口を出て、裏にある物置と下駄箱の間のスペースで
そこにパズルのピースのようにはまっていた。

師匠宅にいる時間は、だいたい掃除をする。
二十二年経った今でもよく夢で具現化されるくらい
あの木造の二階建てを雑巾がけした。
庭も結構草むしりしたのだが、庭の方は夢にあまり出てこない。

おつかいで表に出ることはあったが
帰りが遅いと遊んでる疑いがかけられるのは当たり前で
とにかく走るのは必須だった。

一年くらい経ってから銭湯に行く時間が30分生まれたが
基本24時間師匠宅から出ることはなかった。