ドーピングと芸名 ~志ん雀の由来~
「すずめのさえずり」 第五回
- 落語
古今亭 志ん雀
2025/11/26
画:原田みどり
大人の貫禄
第一回で趣味の筋トレの話はしないと言っておきながら、こやつ早くもネタに詰まってもうそれか。
おまけに禁断のお薬にまで手を出していたのか、とお怒りの向きもあるかもしれないが、どうか落ち着いていただきたい。
筋肉的には全くのナチュラルだ。
ドーピングしているのは筋肉ではない。頭髪である。
この書き出しから想像がつくかもしれないが、今回はなかなかセンシティブなテーマである。
しかし清少納言の昔から、エッセイなどというものは、心に浮かんだことを徒然に書き散らしていくものと決まっている。
少なくとも、好むと好まざると勝手に目に入ってしまうSNSに比べれば、踏み込んだ表現も許されるだろう。
それに、政治、宗教、野球の話はするなとは教わったが、髪の毛の話をするなとは言われていない。
ところで、もうお気づきのかたもおありかと存ずるが、当エッセイは、浅田次郎先生の傑作エッセイ集「勇気凛凛ルリの色」シリーズを多分に意識している。
第三回「恩人について」に至っては、先生のエッセイに全く同じタイトルのものがあった。これは意図的に剽窃したものではなく、偶然そうなってしまったのですよ。いやほんとに。
「勇気凛凛ルリの色」は1990年代の半ばに書かれたもので、当時の先生は40歳を少し過ぎたあたり、今の私よりはひとつふたつ年下ということになる。
それにも関わらず、文章から滲み出る、この圧倒的な「年上」感はなんなのだ。
もちろん、のほほんと生きてきた私と苦労人の先生では、人生の密度がまるで違うのであろうし、私の親世代に当たる先生とは、40歳という年齢の意味するところも異なるだろうけれども、それにしても、
「ああ、40代というのは、本当はこれくらい大人なのだなあ」
と嘆息するばかりである。
だが、これは御本人も度々ネタにしておられるので構わないと思うのだが、大人に感じる理由の何割かは、やはりその風貌によるものではなかろうか。
薄い頭髪に口髭をデン!と蓄えた先生のお顔は、まさに「文筆家」と呼ぶにふさわしい風格をたたえている。
翻って、私の顔は、どうか。
船の仕事で朝食をいただいていた時、
「今日何する? あ、落語あるけど行く?」
「いいよ行かなくて。だってあれ真打じゃないだろ」
という会話を交わす隣のテーブルのご家族に見つからぬよう、必死に反対側を向いてコーヒーを飲んだことがある。
あの時彼らが気まずい思いをせぬよう全力を尽くした自分は、たしかに大人ではあった。だが。
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