落語家の夢

「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第5回

落語家の夢

夢のないやつはいねが~(画:大久保ナオ登)

桂 三四郎

執筆者

桂 三四郎

執筆者プロフィール

キラキラの瞳

「すんません!! 兄さんの夢ってなんなんですか?」

後輩の桂九ノ一にまっすぐな瞳で見つめられた時に、僕はものすごく動揺した。

「ユメッテナンデスカ?」

Siriよりも無機質な声で思わず聞き返してしまった僕に、キラキラした瞳で九ノ一はさらに語りかける。

「僕はね!! ハーレーに乗りたいんです!! ハーレーに乗らずして死ぬ噺家人生にはなりたくないんです!!」

熱く語る九ノ一、まだバイクの免許すら取っていない彼は、純粋な気持ちで僕に訴えかける。

「かっこいいじゃないですか!! 欲しいんすよ!! 兄さんはなんかないんすか!?」

と聞かれて思わず考え込んだ。

もともと僕はあまり物欲がない。

全くないわけじゃないけど、そこまで欲しくてたまらなくなる物が思いつかない。

「兄さん、めっちゃ高い時計とか、つけてみてくださいよ!! ロレックスとか!!」

いや、全然興味ない……。

まず腕時計が嫌い……。

重いし、手首がキュッとされてるのがなんだか嫌だ……。

それにものすごく不注意な僕がロレックスなんかつけたら、壁とかにぶつけまくってズルズルになった上に

ぼーっとして、どっかに置き忘れるだろう。

何百万円も出して激烈に嫌な思いをするほど、バカらしいことはない。。。

「なんか昔、欲しかったものとか買いたくないんですか!?」

と聞かれ

「ムカシホシカッタモノ……」

また出来損ないのSiriに戻ってしまった。

やばい。昔欲しかったものも全然思い出せない……。

僕が考えている間も後輩はキラキラと見つめてくる。

後輩の期待している瞳に応えなければいけないと思い、何とか絞り出した答えが

高校の時に先輩が履いていた高級ブーツ「レッドウイング」。

これが欲しいかな?と絞り出したら

「兄さん……小さいっすわ……」

とがっかりされてしまった。

せっかく絞り出した夢を大きい小さいで判別するとは、なんという後輩だろう……。

素敵すぎる

まあ、でも高校生でも背伸びしたら買えるものを43歳の男性が夢というのは確かに小さい。

後輩にがっかりさせてしまうのもなんなので、何かないかと鏡に映った自分を見て

「あ、あの、最近ちょっと疲れ溜まってきて目の下のクマが気になるから、それを除去したいかな……」

と答えてる途中に、もうすでに求められている答えではないことに気がついて

「あ、あの……雪鹿くんは『夢』ってあるかな!?」

と別の後輩に振ってみた。

すると即答で

「僕は、スイスに行きたいです!!」

スイス? 永世中立国の? スイス? ヨーロッパのどこかの国? どこにあるか正確な場所がわからないことでお馴染みの? スイス?

「昔、『世界の車窓から』って番組で見たスイスの登山電車からの風景が美しすぎて、僕は死ぬまでにスイスの風景を生でこの目に焼き付けたいんです!!」

素敵すぎる……。

キラキラと夢を語る桂雪鹿の眩しさに僕は思わず目を細めながら、すぐにネットで「 スイス 旅行 費用 」と調べた自分が嫌になった……。