落語家の夢
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第5回
- 落語
桂 三四郎
2025/11/27
夢なまはげ
僕はなんでこんなに現実的なのだろうか……。
「夢」
こんな大事な原動力がいつの間に失われてしまったのか?
いつか誰かに言われたことがある。
「夢を売る商売だからこそ、現実を直視しないとね」
この言葉がものすごく心に刺さったからに違いない。
挑戦と無謀は違い、無茶と無理は違う。
勇気と玉砕は、全く別もの。
その考え方を続けてきたことで、一番大事な「夢」を失ってしまったのかもしれない!!
「三四郎さんは、噺家になるという夢を叶えてるじゃないですか~」
と思うかもしれないけど
初めて落語を聞いてから「桂三四郎」と名づけられるまでたった2ヵ月しかかかっていない僕が
「夢だった落語家になった!!」
というのはちょっとおこがましい。。
僕が落語家を志したのは「夢」ではなく、「思いつき」なのだ。。
すぐに落語家になれたのは「タイミング」が良かっただけだ。
そこから僕は会う人会う人に
「夢はなんですか?」
と聞き続ける旅が始まった。。。
「車が欲しいです!!」
「でかい家、住みたいです!!」
「世界一周したいです!!」
「アイドルと結婚したいです!!」
キラキラした目で夢を語る若者の眩しさにやられながら
いつしか僕は「夢」を聞き出すことが目的ではなく
「夢のない人」を探すことが目的になっていた。
「夢のないやつはいねがー!! 夢のないやつはいねがー!!」
若者の夢のキラキラにやられた僕は、一匹の哀しき「夢なまはげ」と化してしまった。
おじさまに聞こう
だめだ。。
若者はダメだ。。
みんな大なり小なり夢を持っている。。
僕よりおじさんで、さらにおじいさんに近い方がいい……。
おじいさんは若者に夢を託すものだ……。
ご一緒した、笑福亭松喬師匠に聞いてみることにしよう。
御年64歳、立派なおじさんとおじいさんの中間のような存在だ。
国立競技場の芝のように綺麗に切り揃えられた角刈りには白髪が混じり
落語家としての年輪と師匠の名跡を継いだ責任感から醸し出される重厚さが感じられる。
「夢のないやつはいねがー!!!」
「え??」
「あ、いやすみません。あの師匠の夢ってなんでしょうか?」
「ユメッテナンデスカ?」
あの名人、笑福亭松喬師匠ですら出来損ないのSiriに変えてしまう、このキラーワードの恐ろしさを実感する。
「あ、九ノ一はハーレーで、雪鹿はスイスなんです」
「は?」
「師匠はもう夢は叶えられてるかもしれないので、叶えてしまった夢でも構いませんので!!」
「夢な~」
夢のないやつはいねが~!!
「なかなか難しいな~」
夢のないやつはいねが~!!!
「まあ、そうやなあ~」
夢のないやつはいねが~!!!!!
「……これと言って、ないねんけど」
このセリフを聞いた時に僕の夢なまはげは、ねぶた祭りと花笠音頭がいっぺんにやってきたほどにテンションが上がっていた。

「こないだ、君とこの師匠が兄弟子の桂慶枝くんを楽屋でめっちゃ怒ってたんや。82歳の師匠が64歳の弟子怒るってすごいで~
僕が82歳になった時に、64歳の弟子をよう怒らんで。やっぱり文枝師匠はすごいな~って思ってたんや。
強いていうなら82歳になってもしっかり弟子を導ける、文枝師匠のような師匠になりたいなあ」
いねが~……。
さすがは師匠、桂文枝だ。。。
こんな角度で後輩に夢を与えているとは思わなかった。。
松喬師匠が82歳になった時、楽屋で62歳の笑福亭喬介を怒鳴り散らしていたら、ぜひ拍手喝采してもらいたい……。
夢のないやつはいねが~……。
夢のないやつはいねが~……。
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