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とめどない嘘のつくろい
「艶やかな不安の光沢」 第3回
- 落語
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ひとはりひとはりのまなざしが、いまも私のほつれを、縫う
「嘘をつくとね、とめどなく、嘘をつかなくちゃ、ならないんだ。取り繕い、とりつくろい、つじつまを合わせなくちゃ、ならないんだ。だから、嘘はついちゃいけないんだ――」
むかし、これこの通りに、夏のしつらえに模様替えをして羅をかぶせられた掘り炬燵(ごたつ)で夜なべして針仕事をしていた母親がみずからを納得させるように、ひとつひとつの言葉を、噛むように、あるいはその頃大学も辞めてしまって東北の田舎町に帰省し、ひとつ屋根の下で生活をしていたいくぶん年をかさねた息子に対して言外に人生を諭すように、小声でつぶやいたことがあった。なぜこれこの通りの文言であると断言できるのかというと、そのとき私は寝転がりながら茫然と深夜番組を眺めていてとくにこれといった返答もしなかったのであるが、どういうわけか、寝るまえの布団のなかで、その母の言葉を一字一句、その頃常時たずさえていたメモ帳に手控えしていたからである。
ふだんから、そういうことは言わない母であった。それは幼少期からも感じていた、現実的生活者としての、母の印象である。それでもふと、あるとき、机の上に伏せてあった黄色い表紙の母のスケジュール帳をのぞいてしまったことがあり、たてよこ均等に仕切られた枡目のところどころに、「努力は、見てくれている」「日々の積み重ねが大事」というような、格言めいたものが薄い鉛筆できれいに書かれているのを見て、子供ながらにはっとさせられたことを憶えていて、地元の農家育ちの母ではあるが、誰にも見られないところにていねいに書きつけられた鉛色の願いも、あの日、その小さな手で、小さな世界を修復しながらつぶやかれた言葉も、それはきっと夜の湖のような、重くつめたい、生きていくための、母なりの処世訓であったのだろうと思う。
しかしまたそう思えばこそ、願いはむなしく、また届かず、母の貯蓄を切り崩したたび重なる援護にも関わらず浪人生活の苦労のすえに入学したはずの大学を中退し、それから再度大学へ行き、改めて勉強に励み、いつかは立派に働くのだと言い残して上京したものの――母からすれば、その意志と頼みを信じてもう一度上京させてはみたものの――とうとう落語家という到底堅気ではない身分におちぶれたその息子は、みずからの戒めの意に反して、やはり嘘つきであったことになる。
その背信を、嘘を、このいまも私は、とめどなく繕う。つくろい、つくろい、ぽっかりと空いてしまった嘘の穴を、これ以上広がるのを油汗流して抑止しながら、見た目にはいかにも調子良くとりなしながら、生きている。とめどない、嘘のつくろい。それは日々を繋ぐための、貫通の縫い針の痛みである。あるいは正しく留められたままの、待ち針の鈍痛である。母の、目を細めた世界へのひとはりひとはりのまなざしが、いまも私のほつれを、縫う。
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