とめどない嘘のつくろい
「艶やかな不安の光沢」 第3回
- 落語
林家 彦三
2026/06/12
小さな手で編まれた、小さな世界。あるいは母も、きっと気づいていたのかもしれない。そうしてあらゆる嘘を、どうしても、とめどなくつかなければならないことに。あきらめながらも、つぶやくことで。それは裏を返すと、ほつれたような日々のしくじりを、自分のなかで――ひとりごとやよみかきの世界によっても――無理にも納得させていく作業ではなかったか。創作も、感情も、実際も含めて、とりつくろうこと。嘘をついていると言われたらそれまでだが、ほんとうの行動なんて、あるだろうか、本心というものが、あるだろうか、人がなにかを正直に告白するときには、それはただ正直だと信じ込んで告白するに過ぎないのではないか、というような、これは懐疑心ということでなくて、その認識の差によるかわらしいしくじりを、きっと私はこのいまでも、なんとかしたいのだ。不体裁でも、そのつじつま合わせのなりわいを、時々の気象におびえながら語彙をあつめ、あるいは生来のドジ、みちを踏み外しながら再生をたどり、そうして大口をからかわれながらも言葉の衣裳を合わせ続ける途方なさによって清算しようとしている、やはり私は罪の多い、嘘つき息子なのである。
嘘つきは、泥棒のはじまり。それは悪くいえば剽窃(ひょうせつ)で、良くいえば理解吸収、わがものするのこころ――本を読み、独語を独学し、落語の稽古をして、昼寝をし、映画を見て、自炊して酒を飲み、誰が読むのかこんな身勝手な文章を弄し、恋愛めいたことに思いを巡らし、あきらめ、将来についての不安を抱き、かかえて、珈琲をたてて日が暮れるというさもしい独身生活に慣れ、芸人の世界に身を投じて、十年。読みはじめの大長篇のようにまだ先は長く、当てにするすじ書きもなく闇夜のように見通しはつかないが、それでも私が頼りになるのは、あの母の願いである。また朝が来て、山あいの湖に光があたって洗われるような想いで、すべての、すべての、すべての、すべての、すべての――つめたい生活感情を、格好の気取りと綾なした言葉でごまかし、その実際を忘れることで創作的な日々のほつれを繕いながら虚栄そのままの姿で生きる生き方に決めてしまった懲罰にも近い屈託におちいるときに私はいまもふと、職業柄忘れかけている東北訛りと、田舎堅気の、ひとつの信仰を想う。
そして、どうだろう、あるいはこのくらいの嘘をつけば、私のこの散文の辻褄もぴたりと糺されるだろうか、などという落ちをつけようとしている自分がいることを感じて、こころなしか日差しもつよくなってきたように感じるこの季節に私の体はそれら焦燥と期待とで、じっとりと汗ばむような気がする。
そろそろ寄席では、夏の噺が出る。

▼林家彦三 X
(毎月17日頃、配信予定)
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