〈書評〉 浅草木馬館日記 (美濃瓢吾 著)
「芸人本書く派列伝 クラシック」 第13回
- 浪曲
- Books
杉江 松恋
2026/05/29
木馬亭をめぐる一冊
今回紹介するのは講談・落語・浪曲を直接扱った本ではない。
ただし密接に関連する本ではある。全国唯一の浪曲定席・木馬亭が一階で開催されている浅草木馬館に関する本だからである。美濃瓢吾(みのひょうご)『浅草木馬館日記』(筑摩書房)がそれだ。
美濃は1953(昭和28)年大分県生まれで、いわゆる〈祝額〉、開店や新築披露などの際に送られる大入看板を中心とした画家である。立教大学を卒業後、神奈川県で暮らしていた美濃は、井の頭沿線の馴染みの店に、祝額を背にした招き猫の油彩画を掛けてもらっていたことがきっかけで、根岸吉太郎(ねぎしきちたろう)と面識を得る。
根岸吉太郎は『遠雷』『永遠の1/2』などの作品がある映画監督で、実は木馬館を経営する根岸興行部の経営者・根岸京子の息子である。その吉太郎から「うちを手伝わないか」と声を掛けられ、住み込みで木馬館二階の売店で働くようになる。
後で書くが、木馬館二階は1977(昭和52)年6月28日まで安来節(やすぎぶし)の寄席として興行が打たれていた。その後、東京都北区の篠原演芸場が入って大衆演劇を始め、現在に至っている。美濃が働いていたのは、その大衆演劇のための売店である。
根岸吉太郎の運転するルノーで1986(昭和61)年5月に木馬館にやってきた美濃は、根岸京子や木馬館の守りをしていた菅谷信三、当時「月刊浪曲」を刊行していた芝清之(しばきよし)に紹介された。そのまま、土曜日から火曜日まではその二階に住み込んで売店を手伝い、残りの日はもともと住んでいた神奈川県小田原市根府川に帰るという生活を始めたのである。
二階に続く階段を上がった部屋は「畳を縦長に三つ並べた広さ」で「二灯の蛍光灯がなければ真っ暗闇となる」。部屋は五重塔通り(奥山おまいりみち商店街)に面しており、「外を通る人の声、変電室のモーター音、浪曲師の声や三味線、そして二階の旅役者のセリフや歌声ばかりが聞こえてくる」。
木馬館一階の木馬亭で浪曲定席公演が始まったのは、1970(昭和45)年のことである。それまでは映画館として使用されていた時期もある。
現在、木馬亭の正面玄関から入ると目の前に木戸があり、左に歩いて行って客席半ばと後方の扉から中に入る構造になっている。おまいりみち商店街に面している側の、向かって右側が舞台で左側に向けて勾配のついた客席が131脚ある。おまいりみちから見て奥、客席からすれば舞台に向かって左側が縦長の楽屋になっているが、映画館時代はここも客席として使われていたらしい。

いま読まれています!
「艶やかな不安の光沢」 第3回
とめどない嘘のつくろい
~人はなぜ物語を作るのか。その答えが、夏の暖簾の向こうにある
林家 彦三
2026/06/12
月刊「シン・道楽亭コラム」 第14回
小学校で10年間、落語を読み聞かせしてわかったこと ~子どもたちにウケた噺ベスト3+番外編
~子どもたちは正直だった。だから落語の本当の面白さが見えた
シン・道楽亭
2026/06/10
「お恐れながら申し上げます」 第10回
謝楽祭の話
~祭の前の幸福な妄想
入船亭 扇太
2026/06/11
「座布団の片隅から」 第14回
旅路(上)
~噺家3人の珍道中! 笑いと涙と二日酔いの落語ツアー前半戦
三遊亭 好二郎
2026/06/07
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
月刊「浪曲つれづれ」 第14回
2026年6月のつれづれ(東家千春の躍動、三門綾の奮闘、天中軒すみれの研鑽/浪曲陰陽師・第二弾)
~新しい時代の息吹がここにある
杉江 松恋
2026/06/09
「芸人本書く派列伝 クラシック」 第13回
〈書評〉 浅草木馬館日記 (美濃瓢吾 著)
~芸を支えた建物の記憶と不思議な魅力
杉江 松恋
2026/05/29
「二藍の文箱」 第13回
地図にない街、地図にない店
~京都、新宿、上野、浅草、池袋。師匠と行った名店の記憶
三遊亭 司
2026/06/02
「くだらな観音菩薩」 第13回
願成就院の毘沙門天
~運慶が作った仏像に心が震えた、きく麿師匠。その一方で…
林家 きく麿
2026/05/16
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第13回
〈書評〉 未来の大看板がここにいる いま、若手の落語家・講談師・浪曲師が面白い (宮信明 著 / 橘蓮二 写真)
~若手76人の魅力を研究者の視点と写真家の感性で活写した“読む寄席”
杉江 松恋
2026/05/21
月刊「シン・道楽亭コラム」 第14回
小学校で10年間、落語を読み聞かせしてわかったこと ~子どもたちにウケた噺ベスト3+番外編
~子どもたちは正直だった。だから落語の本当の面白さが見えた
シン・道楽亭
2026/06/10
「座布団の片隅から」 第14回
旅路(上)
~噺家3人の珍道中! 笑いと涙と二日酔いの落語ツアー前半戦
三遊亭 好二郎
2026/06/07
月刊「浪曲つれづれ」 第14回
2026年6月のつれづれ(東家千春の躍動、三門綾の奮闘、天中軒すみれの研鑽/浪曲陰陽師・第二弾)
~新しい時代の息吹がここにある
杉江 松恋
2026/06/09
「お恐れながら申し上げます」 第10回
謝楽祭の話
~祭の前の幸福な妄想
入船亭 扇太
2026/06/11
「朝橘目線」 第14回
我と来て 遊べや母を 呼ぶ娘
~娘と出かけた文学館で、再会したのは自分の中の少年でした
三遊亭 朝橘
2026/06/08
「艶やかな不安の光沢」 第3回
とめどない嘘のつくろい
~人はなぜ物語を作るのか。その答えが、夏の暖簾の向こうにある
林家 彦三
2026/06/12
「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第十四回
百川、 お菊の皿、 ねずみ
~演者の視点から、オチの仕掛けや工夫を楽しく解説!
林家 はな平
2026/06/06
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
古今亭佑輔とメタバースの世界 第10回
リアルインスタンスレポート ~20代・30代が集まる落語会の正体
~仮想と現実の境界線の先に見えた、落語のあたたかな可能性
古今亭 佑輔
2026/06/05
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第14回
ウケるごとに極まっていくその美貌
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/06/03
月刊「シン・道楽亭コラム」 第14回
小学校で10年間、落語を読み聞かせしてわかったこと ~子どもたちにウケた噺ベスト3+番外編
~子どもたちは正直だった。だから落語の本当の面白さが見えた
シン・道楽亭
2026/06/10
「浪曲案内 連続読み」 第11回
浦安の風が吹いている
~かつて浦安にあった寄席と浪曲師の物語
東家 一太郎
2026/05/20
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第13回
〈書評〉 未来の大看板がここにいる いま、若手の落語家・講談師・浪曲師が面白い (宮信明 著 / 橘蓮二 写真)
~若手76人の魅力を研究者の視点と写真家の感性で活写した“読む寄席”
杉江 松恋
2026/05/21
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
シリーズ「思い出の味」 第6回
茶色いうどん
~自分の未来を見つめる8歳の少年
三遊亭 ごはんつぶ
2025/06/25
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第38回
新しい響きを持つ講談への挑戦 神田おりびあ(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/05/30
「座布団の片隅から」 第14回
旅路(上)
~噺家3人の珍道中! 笑いと涙と二日酔いの落語ツアー前半戦
三遊亭 好二郎
2026/06/07
「令和らくご改造計画」
第十話 「オチログ」
~前座が作った落語家レビューアプリ「オチログ」を巡る狂騒。ブラックユーモア満載の笑撃作!
三遊亭 ごはんつぶ
2026/05/15
「二藍の文箱」 第13回
地図にない街、地図にない店
~京都、新宿、上野、浅草、池袋。師匠と行った名店の記憶
三遊亭 司
2026/06/02
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第14回
ウケるごとに極まっていくその美貌
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/06/03
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第9回
優雅な航海中の後悔を公開
~“憧れの仕事”から繋がる伏線が鮮やかな船旅エッセイ!!!
桂 三四郎
2026/04/13
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第5回
落語家の夢
~俺の目は、まだ濁っていない!!!
桂 三四郎
2025/11/27
「艶やかな不安の光沢」 第1回
謂れなきものたちの飛躍
~年始からとちってしまった芸人の胸のうち
林家 彦三
2026/02/12
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
「令和らくご改造計画」
第六話 「若手人気落語家殺人事件 【事件編】」
~古典派と新作派の溝!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/01/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第6回
運と皆様のおかげです
~人間は弱い生き物です
桂 三四郎
2026/01/01
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第8回
微笑みながら中指を
~笑えて震える、ご近所交流録! マトリックスばあさん、降臨!!
桂 三四郎
2026/02/25
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第7回
世間せまないか?
~落語家を多数輩出する片田舎、神戸の垂水
桂 三四郎
2026/02/01
シリーズ「思い出の味」 第19回
雪のココア
~内弟子時代に憧れた甘い味
柳家 わさび
2026/01/13
編集部のオススメ
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第13回
〈書評〉 未来の大看板がここにいる いま、若手の落語家・講談師・浪曲師が面白い (宮信明 著 / 橘蓮二 写真)
~若手76人の魅力を研究者の視点と写真家の感性で活写した“読む寄席”
杉江 松恋
2026/05/21
「浪曲案内 連続読み」 第11回
浦安の風が吹いている
~かつて浦安にあった寄席と浪曲師の物語
東家 一太郎
2026/05/20
「令和らくご改造計画」
第十話 「オチログ」
~前座が作った落語家レビューアプリ「オチログ」を巡る狂騒。ブラックユーモア満載の笑撃作!
三遊亭 ごはんつぶ
2026/05/15
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第10回
ああ…麗しの吉本興業……
~吉本興業を辞める話なのに、なぜこんなに爆笑してしまうのか!?
桂 三四郎
2026/05/12
月刊「シン・道楽亭コラム」 第13回
シン・道楽亭、誕生前夜から今へと続くキャリー・ザット・ウェイト Part.3
~橋本さん亡き後に立ちはだかった超大型の壁
シン・道楽亭
2026/05/10
「座布団の片隅から」 第13回
声優
~話題の人気アニメ『あかね噺』で声優デビューさせていただきました!
三遊亭 好二郎
2026/05/07
「ずいひつかつどお」 第10回
なぽりたんといっしょ
~つまり、ナポリタンはボヘミアン・ラプソディなのである
立川 談寛
2026/05/04
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第13回
芸人、変な人多い
~宇宙一の美人浪曲師が綴る、愛おしすぎる芸人日記
東家 千春
2026/05/03
「二藍の文箱」 第12回
午後の逡巡
~その街に息づいた食堂で、ひとり手酌もまた愉し
三遊亭 司
2026/05/02
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【前編】
~小さん師匠の「おめでとう」から始まる新しい年
話楽生Web 編集部
2026/01/25