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〈書評〉 浅草木馬館日記 (美濃瓢吾 著)

「芸人本書く派列伝 クラシック」 第13回

楽屋に染み込んだ芸人たちの気配

 その楽屋から、おまいりみち商店街から見れば裏にあたる、西参道に抜ける木戸がある。その手前に見えるのが「月刊浪曲編集部」と書かれた札が貼ってある扉で、これは二階に続くものだろうが、私は入ったことがない。

 扉の横に小さなお勝手がある。美濃は、ここで食事を摂っていた。お勝手には換気装置があり、小さな窓があった。人ひとりがようやく這って入れるくらいの窓だが、以前にそこから侵入者があったとかで、美濃が来たときには格子がはめこまれていた。真夜中に美濃はこのお勝手に携帯ラジオを持ち込み、長い長い時間を過ごしたのである。

 一階の楽屋で寝ることもあった。興味深い記述がある。

 楽屋での眠りは、時に思わぬ妨害を受けることがあった。画家の平賀敬(ひらがけい)が泊ったときのことである。

 浪曲の本ではないが、演じられる場で暮らす者の回想記なので、必然的にその話題が出てくる。たとえば「涙腺と裏声」の章には、木馬亭で「刺青の実演と東家浦太郎の浪曲を聞く会」があったことが記されている。この浦太郎は先年亡くなった太田英夫の二代目ではなく、初代だろう。そんな会があったとは知らなかった。

 木馬館外の話題も出てくる。故・国本武春は1992年9月5日から上野東照宮参集殿で、キーボード奏者の日野晃(ひのあきら)と組んで新作を手がける「国本武春のお話しらいぶ・びんなりしんなり」を始めた。

 この会に美濃は、招き猫の大画面を背景として貸し出していたという。ご覧になった中には記憶に留めておられる方もあるのではないかと思う。