第十話 「オチログ」
「令和らくご改造計画」
- 落語
三遊亭 ごはんつぶ
2026/05/15
絵:大熊2号
#1
落語家という商売は、基本的に個人商売である。
高座へ上がる時、そこに座るのは一人だ。ウケるのも、スベるのも、どう自分を見せようと、基本的には本人の自由である。そして落語家も、「自分の芸は自分のものだ」と思っている。もちろん、それは間違っていない。
ただ、世間から見た時に、落語家というのは本当に一人だけの看板で見られているのだろうか。僕は、そうではない時があるとも思っている。
落語を聞いたことがない人が、たまたま近所の落語会へ行ったとする。そこで初めて耳にした落語が、その人にとっての「落語」になる。
そこにエンタメ精神あふれる落語家が出ていれば、
「落語って面白いんだな」
と思ってもらえる、かもしれない。
しかし、業界内でこじらせた美学を振りかざしていたり、明らかに流して仕事をしている落語家に当たってしまえば、
「落語って、よくわからないものなんだな」
という印象を持たれてしまう可能性も高いだろう。
これは、とても恐ろしいことだ。
つまり我々落語家は、常に自分一人の看板だけで高座に上がっているわけではない。実際には「落語」という大きな看板を背負っている。
もちろん、常連のお客様ばかりが集まる会なら、ある程度は話が違う。お客様も落語を知っているし、芸人ごとの違いや美学も楽しめる。その際に、「落語」の看板は必要ない。
だが、学校寄席や地域向けの落語会のように、初めて落語を聞く方が多い現場では、自分が「落語家代表」として座布団に座っているという意識を持つべきなのだ。
#2
では、そこまで考えて活動をするとなった際に、果たして自分の中にどれだけ引き出しがあるのか。
マニアがうなずく手札。
落語を聞き始めた人が楽しめる手札。
初めて落語を聞く人が安心して笑える手札。
そして、自分個人の趣味や美学に寄せた手札。
そういう複数の手札は持っていた方がいい。その方が、芸人としての厚みも出るのだろうなと、活躍する先輩方を見ていても思う。
もちろん、初心者向けだけを活動の軸にしろと言っているわけではない。渋い芸も必要だし、わかる人にだけ深く刺さる芸だって、文化としては大切だ。
ただし、TPO(時・場所・場合)に合わせられるかどうかが重要だ。そもそも、仕事なのだから。
それができない・しない芸人は、初めて落語を聞く人の前で、ただ自分の美学だけを押し出し、客席を置いていく。そして、それによって「落語はわかりにくい」と思われてしまったら、元も子もないだろう。
正直、そういう芸人には、学校寄席や営業の仕事へ行かないでもらいたいとすら思っている。
その人の芸を否定したいわけではない。ただ、現場に求められている手札を持っていないのなら、その仕事に行くべきではないのではないか、という話だ。
しかし、どんな芸人も自分がかわいい。仕事が来れば、手札なんて関係なく、ただ出演料のために行ってしまう。そうなれば、やはり初めて落語を聞く人に「落語とはよくわからないものだ」というレッテルを貼らせてしまうだろう。
最近も落語のアニメなどをきっかけに、落語を初めて聞いてみようという人は増えているのかもしれない。その時、業界として、こういった「初落語」の打率が上がらないままで本当にいいのだろうか。
これは、かなり大きな問題ではないか。
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