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第十話 「オチログ」

「令和らくご改造計画」

#4

 「○べログって、あれだっけ?」
 「はい。飲食店を星五段階で評価して、口コミを書き込む、あれです」

 「そうだよね。それの『落語家版』って、どういうこと?」
 「つまり、落語家をレビューできるアプリを作るんです」

 「そんなアプリ、君に作れるの?」
 「私には作れません。ですので算用亭でん吉(さんようていでんきち)兄さんに頼みます」

 算用亭でん吉――。

 以前、AI落語を作り出し、危うく落語の未来を滅ぼしかけた前座である。大学院でAI研究をしていたという異色の経歴を持つので、確かにアプリくらいならすぐに作ってしまいそうではある。

 「で、それを作るとどうなるの?」

 れびうは、待ってましたとばかりに説明を始めた。

 「たとえば、飲食店のレビューに、こういうものがありますよね。〈○○ラーメン、星1.5〉」
 「う~ん、ちょっと低いね」

 「口コミは、〈味噌ラーメンを注文した。提供までが遅く、また味の質もあまり良くない。店内も汚かった〉」
 「ありそうだね。店側が見たら落ち込むだろうなあ」

 「これの芸人版を作るんです。兄さんなら〈三遊亭ごはんつぶ、星1.5〉」
 「うわ、低い」

 「口コミは、〈『子ほめ』を聞いた。導入までが遅く、また笑いの質もあまり良くない。所作も汚かった〉……こうなります」
 「君次第じゃない? 架空の口コミで傷つけてこないでね」

 苦笑いする僕をよそに、れびうは続けた。

 「しかし、このように具体的な評価が集まることで、自分がどう人に見られているのかがわかります」

#5

 間違ってはいないのかもしれない。確かに、自分の芸がどんなふうに受け取られているのかを知る機会は意外と少ない。

 「そうして、自分はいろいろな人に楽しんでもらえる意識を持っているのかを問いかけるキッカケになるはずです」
 「確かにその仕組みなら、一部の常連さんばかり喜ばせていても総合的には高い評価は得られないだろうね」

 「その通りです。特に新規の方などが低いレビューを付ける落語家は、全体の評価が低くなっていきます。ですから、幅広い方に楽しんでもらおうと心がけるようになるはずです」

 理屈はわからなくもない。しかし、そう簡単にいくだろうか。

 「でも、そんなアプリを作ったところで、演芸ファンに浸透するかな」

 れびうは、きっぱりと言った。

 「します」
 「言い切るね」

 「演芸ファンには案外、節操がありませんから」
 「おうおうおう?」

 「いえ、冗談ですが。まあ、面白そうという理由で、すぐに広まるでしょう」
 「そんなものかな」

 「いまだに5ちゃんねるを見たり、書いたりしているような連中ですから」
 「別に、全員ではないだろうけどね」

 「それより、5ちゃんねるに張り付いている芸人ってなんなんでしょうか?」
 「……うん。いろいろ言いたい気持ちはわかるけど、話を戻そうか」

 「ああ、そうでした。別に、そんなヤツラのことはどうでもいいんです」

 普段は真面目な前座さんだが、諸先輩方を「ヤツラ」呼ばわりとは、なかなか思うことがあるのだろう。

 「えー、落語の食べログ、略して『オチログ』です。早速、でん吉兄さんにアプリを開発してもらいます」

 そう言うと、れびうは楽屋を飛び出していった。

 止めた方がいいのか。それとも、これは案外まともな改革なのか。判断がつかないまま、僕は彼女の背中を見送った。