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流麗にして弁舌 一龍斎貞鏡 (前編)

「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第1回

父との距離

――最初に聴いた貞山先生の演目は何でしたか?

貞鏡 『牡丹燈記』でした。私が好きな怪異譚で、私はもともと怪しい雰囲気の話が好きなので、それでビビッと来たんだと思います。それが例えば『山崎軍記』や『柳生二蓋笠』とかであったら、ビビッと来なかったかも知れません。そうしたら私はいまだに講釈師をやってなかったかも知れません。たまたま『牡丹燈記』であったというのが、見えない赤い糸に手繰り寄せられたというか。

――まさに怪談の持つ因縁ですね(笑)。

貞鏡 そうかも知れませんね。だからこそ『牡丹燈記』は思い入れの深い話です。

――学生時代は留学をされていたんですよね。

貞鏡 カナダに短期留学していました。といっても、半年だけですから、お遊びみたいなものです。

――その頃に貞山先生を通して、講談に触れる機会はなかったんですか。

貞鏡 講談がどういったものか知りませんでした。父からも「恥ずかしいから、客席に顔が見えるとやりづらい。お前は来るな」って言われていたので。

――お父様が講談をやっていたということはわかっていたんですか。

貞鏡 「講談」という単語は頭にありましたが、それがどういうものかを調べることはなかったですし、講談そのものに興味がなかったんです。家にいることの多い母親とは立ち位置が違いますし、そもそも父はほとんど家にいなかったんです。土日は高座だし、平日は麻雀に出掛けたりで(笑)。

 だから小さい頃の父親の思い出もほとんどなかったのですが、今になって写真を見返したりすると、肩車してくれたり、浴衣を着せてくれたり、膝の上に乗せてくれたり、お馬さんごっこをしていてくれたり……。忙しい中でも可愛がってくれてたんですね。