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〈書評〉 寄席切絵図(六代目三遊亭圓生 著)
杉江松恋の「芸人本書く派列伝 クラシック」 第1回
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下駄でぶらりの文化
さまざまな寄席の記述を読んでいると、二階寄席という表現が頻出する。一階は住居なのである。圓生の義父である五代目も青山三光亭という寄席を経営していたことがあったが、やはり同じ建物に住んでいた。
両国の立花亭、本郷の若竹亭と並んで府内一等の席だったという浅草・並木亭は、圓生が豆仮名太夫のころから出演していて縁の深い寄席だ。詰めれば800人は入ったというが、やはりここも二階寄席だった。その内部構造に関するくだりを引用してみよう。
――木戸をはいると、すぐ梯子段があって、それをあがって、客席へ行くという……階下は、席主の住居でございますが、木戸をはいったところから、ずうッと左横のほうに廊下がありまして、ちょっと行くと、そこンところに、お客さま用のはばかりがあり、また梯子段があって、これをあがると楽屋へはいる、というような構造でございました。
寄席の所在地は大通りに面していたわけではなく、横丁を入ったところにあるような場所も多かったようだ。そういうところに住居兼店舗がぽつぽつあったわけで、町内の寄席、ということで客も訪れていたのだろう。落語の寄席はわざわざ行くところではなく、下駄掛けでぶらりと訪ねる日常の娯楽施設だったのである。
平成になって個人主催の寄席が増えた。そういった催しは本来の定席とは違う落語会ではあるのだが、寿司屋・蕎麦屋の二階で行われるような形は、案外、明治大正の昔に近いのかもしれない。落語が名実共に大衆娯楽文化の中心だった時代を、知らず知らずのうちにそうした会の主催者はなぞっているのだ。
(以上、敬称略)

- 書名 : 寄席切絵図(新装版)
- 著者 : 六代目 三遊亭圓生
- 出版社 : 青蛙房
- 書店発売日 : 2001年8月
- ISBN : 9784790501541
- 判型・ページ数 : A5判・304ページ
- 定価 : ―
(毎月29日頃、掲載予定)