流麗にして弁舌 一龍斎貞鏡 (後編)
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第3回
- 講談
瀧口 雅仁
2025/05/31
七代目から受け継ぐ講談の魂
―― 私の好きなこの先生のこの一席というものを教えてください。
貞鏡 ありすぎてずっと考えていたんですが、師匠貞山であれば、やはり『千葉の槍』。琴柳先生の『甲越軍記』。琴梅先生の『鯉のご意見』。ぞくぞくするほど大好きです。『鯉のご意見』は『三方ヶ原』に繋がっていく話で、私もお稽古をつけていただきましたが、あの酔っ払ってはいるものの真の底からは酔っ払っていないという姿ができなくて……、年月をかけて磨いてまいります。好きな演目はまだまだ他にもたくさんあります。
―― では、一龍斎貞鏡この一席!は何ですか。
貞鏡 ……僭越ですが、強いて挙げさせていただくなら、「赤穂義士伝」の『出世の刀鍛冶』。『忠僕直助』が一番好きな話です。私は七代目貞山のやり方で、自分の素性を明かさずに修業をはじめて、最後に実は岡島八十右衛門の中間ですと、自分の身元を暴露する展開です。
師匠のは元々「播州赤穂浅野内匠頭様の家来岡島八十右衛門の中間で直助」と説明してから入るんです。私はそれを聞いて、七代目のやり方でやろうと思ったんですが、中間である直助が主人を思う気持ちや、主人がまた直助を、そして浅野内匠頭様を思う気持ち、特に子どもを産んでからは人が人を思う気持ちというのがたまらなくなってしまったんですね。
今までは愛とか思いやりという言葉がくすぐったくて恥ずかしかったんですが、子どもを産んで愛というものを知り、子を思う気持ちは何よりも代えがたいもので、子どもの幸せを願い、たくましく育って欲しいという気持ちが起こった中で聴いたのが、七代目の『忠僕直助』だったんです。
出産後、高座を休んで、少し時間があった時に聴いた、直助の気持ちが私の琴線に触れてしまって、講談の魅力を再確認できた読み物です。あの時の感動はいまだに鮮明に覚えています。
―― あとは貞鏡さんと言えば、悪女物(笑)。
貞鏡 悪女ねえ……。私も申し上げていて、べらぼうに楽しいです(笑)。翠月先生がご存命であれば、まだまだ色々と教えていただきたかったんですが……。
―― では、これから読んでみたい講談は何ですか?
貞鏡 やっぱり義士と修羅場はもちろんですが、あとは軟らかい読み物。宝井琴調先生から『出世の春駒』をお稽古をつけていただきましたが、格調高さを保ちながらのコミカルさ。その軽さをもっと出せるようにしたいです。
七代目(貞山)は強面で黙々と読んでいる中で、突然、フッと力を抜いて、また何事もなかったかのように読み始める。緊張と緩和を良い塩梅に読めるようになりたいです。『出世の春駒』であれば、石段を登る時に春駒が「無理っすよ。ブルル」というあの間合い。曲垣平九郎が乗る馬の愛らしさをもっと出したい。
貞鏡の講談の登場人物はみんな格好良いと、よくお客様から仰っていただくのですが、格好良いばかりではなくて、可愛らしかったり粗忽者など愛されキャラであったり、可哀想な人であったり、どうしようもない極悪人であったり、そういう人物描写をもっと鮮明に演じ分けていきたいと思っています。それが目下の課題です。
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