帽子

三遊亭好二郎の「座布団の片隅から」 第3回

目指せ、九重のキムタク

 そのトラウマは、高校一年生の頃に遡る。

 私の故郷は、大分県玖珠郡九重町。くじゅう連山が連なる自然にあふれた町である。そんな九重町には、若者が通うようなメンズの服屋がない。当然、ファッションの知識を得る方法は皆無で、私は母親が大きな町からセールで買ってくる、よくわからないブランドの服を着るしかなかった。

 同じ九重町から学生が集まっている小学校・中学校まではそれでなんとかなっていたが、高校生になり、隣町の高校に入学すると、そうはいかなくなってきた。今考えれば隣町だって田舎なのだが、その当時の私にはとんでもない都会に思えたものだ。

 隣町の高校の同級生はオシャレなやつが多くて、昼休みの会話のテーマが新鮮だった。「ファッション雑誌は何買ってる?」とか、「服はどうやって選んでる?」だとか、今まで九重町で話したことがないトークテーマが頻出したが、「服? まぁまぁ、タンスにあるやつ、上から着てるかな」とキムタクっぽく答えて適当にその場をやり過ごしていた。

 ところが、そんな彼らと親交を深める目的でバーベキューをすることになった。普段は制服で会っている同級生と私服で会うことになったのである。キムタク感を出した手前、ここで高校デビューしなければ舐められる。ファッショナブルなやつだとカマさないといけない。

 私も家にある服で最大限のオシャレをすることになってしまった。これがトラウマの始まりになるとは知らずに……。