帽子

三遊亭好二郎の「座布団の片隅から」 第3回

夏の幻、青春の謎

 正気な人が作ったとは思えないダサさだが、思春期の私には天啓のように思えた。周りの農家のおばあちゃんがサンバイザーをつけて農作業していたのを昔からよく見ていたからかもしれない。

 そのメッシュキャップを斜めに被って肩で風を切って意気揚々とバーベキューに参加したが、開始0.2秒で同級生に大爆笑され、その日からしばらくあだ名が「サンバイザー」になった。

 私は見事、高校デビューに失敗したのである。おかげでスクールカーストの最下層からスタートすることになってしまった。それがトラウマとなり、帽子を被るのがしばらく苦手だった。それを克服できたのは、カンカン帽のおかげである。

 このエッセイを書きながら、久しぶりに件のサンバイザーみたいなメッシュキャップを思い出したので、ネットで探してみた。だが、どんなに検索しても見つからない。思春期の私に強烈なトラウマを植え付けたあれは何だったのか。

 もしかしたら――夏の幻だったのかもしれない。

(毎月7日頃、掲載予定)