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理想のパスタ

シリーズ「思い出の味」 第8回

食べたのに、何かが今も胸につかえている

 思い切ってほおばる。

 味はおいしかった。おいしかったが、脳が言うことをきかない。

 「こんなに真緑なんだぞ。どこか草の味がするはずだ。探せ! 草の味を探せ!!」

 脳がそう語りかけてくる。あれほど麺、ソース、具、と口中にあるものの味をひとつひとつ確かめたことは後にも先にもない。

 弾力のあるカッペリーニ。ちょうど良い塩気と濃厚なバジルの香りを放つソース。良い具合に熟れていてコクのあるアボカド。意外とバジルとケンカせず、それでいて存在感のあるドライパセリ。

 草の味はしなかった。まぁそうだろう。これは苔でも芝生でもなく、パスタ専門店のパスタなのだから。

 やっと一口目を飲み込んで前を見ると、女の子は心配そうに私を見ている。おいおい、君のパスタが冷めちまうぜ。私は余裕を見せるため、精一杯のユーモアと笑顔で言った。

 「ピーマンも載せればよかったかな?」

 この女の子とは、この日を最後に会っていない。

(了)