前座見習に師匠見習
「二藍の文箱」 第3回
- 落語
三遊亭 司
2025/08/02
君の名は
さて、そんな弟子を本名で呼び続けるのも気が入らない。教えるのは弟子であって、本名の彼ではない。教わる弟子も覚悟が決まらないであろう。
師匠歌司に芸名の相談をした。司の字をつけたり、歌の字をつけたり。そうこうしているうちに「本名でもいいんじゃないか」と言い出した時点で、あ、飽きたな。と判断。はなしを切り上げようとすると、「まぁ、お前の弟子だからお前が決めろ」と、やはり飽きていた。
寿に司で「ひさし」に決まりかけたが、師匠の兄弟弟子・小歌師匠が小歌になる前に名乗っていた「歌坊」という名前を思い出した。小歌師匠は侠気あふれる師匠で、わたしは「オジキ」と呼ぶが、なぜか師匠はわたしを「兄弟」と呼ぶ。圓歌一門きってのアウトローで、師匠にまつわるそれらのはなしを深掘りすると原稿がボツになる。
真打として名乗っていた名前だが、落語家のカタチもつかない若者に芸人の香りのついた名前もいいだろうと、ご自宅にお願いにあがった。80歳を過ぎても尚お元気で、2時間ほど芸談よりも反社界隈の話で盛り上がった。「歌坊」どころか「小歌の名前もお前にやる」と印鑑も預かった。「師匠、わたし小歌は要らないんですが」と断ったのに。
かくして、22歳の青年は三遊亭歌坊となった。
よし遅くとも
この商売をしているとインタビューをよく受ける。すべてが同じように答えているかというと、そんなことはない。変わらないのは、落語家を生き方として意識した時のことだけだ。
そんなインタビューの終わりには、将来の夢や目標を聞かれるのも定番で、それへの答えも、二ツ目のころから変わらない。
弟子がくる落語家、弟子を取れる落語家。
それは、「売れたい」という話ではなく、それだけ次世代に伝えるものを持っていたい。そして弟子を取ることが、歌司や三木助、三代目圓歌、五代目小さん、それぞれの師匠たち、しいては落語に対する恩返しであり、義務とすら思っている。
弟子個人の素質ではなく、前座見習いなど、いつどうなるかわからない。今この時、彼はもういないかもしれない。それは彼にとって、悪いこととは限らない。
わたしの「圓歌一門更新制度」ではないが、わたしも、毎日、毎月、毎年、落語家でいたいという覚悟と努力が27年続いている。それでいて視線は5年、10年、20年と先を見ている。だから弟子にも、1日1日確実に歩んでほしい。その一歩が、たとえ小さなものだとしても。
令和7年4月16日、わたしは師匠になった。
(毎月2日頃、公開予定)
―― 三遊亭司『二藍の文箱(ふたあいのふばこ)』シリーズ連載一覧
いま読まれています!
「講談最前線」 第8回
2025年9月の最前線 【後編】 (宝井小琴の二ツ目昇進、神田鯉花の結婚/講談入門② ~入門書編1)
~講談界の慶事と、初心者におススメの一冊
瀧口 雅仁
2025/09/14
「ピン芸人・服部拓也のエンタメを抱きしめて」 第7回
百花繚乱! 10人組の落語家ユニット「芸協カデンツァ」がやって来た【前編】
~世代を超えた多種多様の香味全開のおもしろユニット!
服部 拓也
2025/11/20
「べべログ」 第3回
グリル梵の「ヘレカツカレー煮込み」(大阪市浪速区)
~20年越しの味と笑い。蘇るあの日の記憶
笑福亭 べ瓶
2025/11/21
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第4回
あふれる情熱と笑顔 神田鯉花(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/06/27
「エッセイ的な何か」 第6回
11月7日は鍋の日 →高級食材を食いまくった男の疑問
~なぜ高額なアンコウ鍋が食べ放題だったんだろう?
三笑亭 夢丸
2025/11/19
「かけはしのしゅんのはなし」 第6回
大会後のご褒美は、魅惑のナポレターナとプロシュート!
~11月20日は、ピザに恋する日!
春風亭 かけ橋
2025/11/18
「すずめのさえずり」 第一回
エッセイについて
~待望の連載がスタート!
古今亭 志ん雀
2025/07/26
「ラルテの、てんてこ舞い」 第1回
悩ましい食の話と、桂雀々エピソード1
~桂雀々師匠と二羽のカラスの物語
ラルテ
2025/06/29
月刊「シン・道楽亭コラム」 第3回
小さな演芸場、大きな縁 ~シン・道楽亭、再始動の一年
~還暦を過ぎて見つけた「宝物」
シン・道楽亭
2025/07/10
「くだらな観音菩薩」 第7回
目青不動
~人の縁に感謝。ありがとうございます
林家 きく麿
2025/11/16
「講談最前線」 第8回
2025年9月の最前線 【後編】 (宝井小琴の二ツ目昇進、神田鯉花の結婚/講談入門② ~入門書編1)
~講談界の慶事と、初心者におススメの一冊
瀧口 雅仁
2025/09/14
「ピン芸人・服部拓也のエンタメを抱きしめて」 第7回
百花繚乱! 10人組の落語家ユニット「芸協カデンツァ」がやって来た【前編】
~世代を超えた多種多様の香味全開のおもしろユニット!
服部 拓也
2025/11/20
「べべログ」 第3回
グリル梵の「ヘレカツカレー煮込み」(大阪市浪速区)
~20年越しの味と笑い。蘇るあの日の記憶
笑福亭 べ瓶
2025/11/21
「かけはしのしゅんのはなし」 第6回
大会後のご褒美は、魅惑のナポレターナとプロシュート!
~11月20日は、ピザに恋する日!
春風亭 かけ橋
2025/11/18
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第4回
あふれる情熱と笑顔 神田鯉花(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/06/27
「エッセイ的な何か」 第6回
11月7日は鍋の日 →高級食材を食いまくった男の疑問
~なぜ高額なアンコウ鍋が食べ放題だったんだろう?
三笑亭 夢丸
2025/11/19
「マクラになるかも知れない話」 第三回
となりは鼻うがいをする人ぞ
~ねぇママ、パパは何をしているの?
三遊亭 萬都
2025/10/22
「ラルテの、てんてこ舞い」 第5回
雀々が残した大提灯
~今もたくさんの人に愛される桂雀々師匠
ラルテ
2025/11/10
「講談最前線」 第10回
2025年11月の最前線 (聴講記:神田松麻呂・神田鯉花 連続読み、神田春陽の会)
~リレー講談「寛永宮本武蔵伝」と、緩急自在の「大岡政談」
瀧口 雅仁
2025/11/17
「ラルテの、てんてこ舞い」 第1回
悩ましい食の話と、桂雀々エピソード1
~桂雀々師匠と二羽のカラスの物語
ラルテ
2025/06/29
「かけはしのしゅんのはなし」 第6回
大会後のご褒美は、魅惑のナポレターナとプロシュート!
~11月20日は、ピザに恋する日!
春風亭 かけ橋
2025/11/18
「講談最前線」 第10回
2025年11月の最前線 (聴講記:神田松麻呂・神田鯉花 連続読み、神田春陽の会)
~リレー講談「寛永宮本武蔵伝」と、緩急自在の「大岡政談」
瀧口 雅仁
2025/11/17
「講談最前線」 第8回
2025年9月の最前線 【後編】 (宝井小琴の二ツ目昇進、神田鯉花の結婚/講談入門② ~入門書編1)
~講談界の慶事と、初心者におススメの一冊
瀧口 雅仁
2025/09/14
「くだらな観音菩薩」 第7回
目青不動
~人の縁に感謝。ありがとうございます
林家 きく麿
2025/11/16
「浪曲案内 連続読み」 第7回
レッサーパンダの風太くんは、パン間国宝!
~日本中が沸いた風太くんの生き様が浪曲に!
東家 一太郎
2025/11/15
「エッセイ的な何か」 第6回
11月7日は鍋の日 →高級食材を食いまくった男の疑問
~なぜ高額なアンコウ鍋が食べ放題だったんだろう?
三笑亭 夢丸
2025/11/19
「ピン芸人・服部拓也のエンタメを抱きしめて」 第7回
百花繚乱! 10人組の落語家ユニット「芸協カデンツァ」がやって来た【前編】
~世代を超えた多種多様の香味全開のおもしろユニット!
服部 拓也
2025/11/20
月刊「シン・道楽亭コラム」 第7回
シン・道楽亭、誕生前夜から今へと続くキャリー・ザット・ウェイト
~すべては菊太楼師匠との駄話、駄飲みから始まった
シン・道楽亭
2025/11/13
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第7回
〈書評〉 若手だった師匠たち 年間1000席の寄席通いノートから(寺脇研 著)
~「忘れ去られるはずの瞬間」が浮かび上がる貴重な論集
杉江 松恋
2025/11/19
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
月刊「シン・道楽亭コラム」 第7回
シン・道楽亭、誕生前夜から今へと続くキャリー・ザット・ウェイト
~すべては菊太楼師匠との駄話、駄飲みから始まった
シン・道楽亭
2025/11/13
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第7回
ビールの秋、日本酒の秋、わたしの美が深まる秋
~浪曲師の日記が、ここまで笑えていいんですか!
東家 千春
2025/11/03
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第4回
上方落語大会議「なんぼでなんぼ」
~苛酷な仕事、ギャラなんぼやったら行く?
桂 三四郎
2025/10/24
「マクラになるかも知れない話」 第三回
となりは鼻うがいをする人ぞ
~ねぇママ、パパは何をしているの?
三遊亭 萬都
2025/10/22
「かけはしのしゅんのはなし」 第6回
大会後のご褒美は、魅惑のナポレターナとプロシュート!
~11月20日は、ピザに恋する日!
春風亭 かけ橋
2025/11/18
入船亭扇太の「お恐れながら申し上げます」 第3回
番頭色々
~「本当にやって良かった」 に感謝を込めて
入船亭 扇太
2025/11/11
「講談最前線」 第8回
2025年9月の最前線 【後編】 (宝井小琴の二ツ目昇進、神田鯉花の結婚/講談入門② ~入門書編1)
~講談界の慶事と、初心者におススメの一冊
瀧口 雅仁
2025/09/14
古今亭佑輔とメタバースの世界 第5回
現実世界との相互作用
~VRで広がる落語の可能性
古今亭 佑輔
2025/11/05
「ラルテの、てんてこ舞い」 第5回
雀々が残した大提灯
~今もたくさんの人に愛される桂雀々師匠
ラルテ
2025/11/10
編集部のオススメ
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第4回
上方落語大会議「なんぼでなんぼ」
~苛酷な仕事、ギャラなんぼやったら行く?
桂 三四郎
2025/10/24
「マクラになるかも知れない話」 第三回
となりは鼻うがいをする人ぞ
~ねぇママ、パパは何をしているの?
三遊亭 萬都
2025/10/22
「エッセイ的な何か」 第5回
10/9は、アメリカンドッグの日 →兄さんに呼び出された男の困惑
~その男は『ドッグ』と呼ばれた!
三笑亭 夢丸
2025/10/21
「かけはしのしゅんのはなし」 第5回
スポーツの秋! 落語家がサーフパンツで舞台に立つ日
~筋肉は裏切らないが、笑いはたまに裏切る?
春風亭 かけ橋
2025/10/18
「くだらな観音菩薩」 第6回
鑑真和上
~そう、諦めちゃあいけないんだ
林家 きく麿
2025/10/16
「令和らくご改造計画」
第三話 「内輪ノリ」
~またも前座が楽屋を混乱に陥れる!
三遊亭 ごはんつぶ
2025/10/12
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第6回
ビール飲み干し、そしてわたしに秋が来る
~時にヒリヒリ、時に爆笑の舞台裏!
東家 千春
2025/10/03