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権助魚、壺算、明烏
林家はな平の「オチ研究会 ~なぜこのサゲはウケないのか?」 第4回
- 落語
十二席目 『明烏』 ★★★
◆【あらすじ】
日本橋田所町三丁目の日向屋(ひゅうがや)の若旦那・時次郎(ときじろう)は、バカがつくほどの堅物で、いつも本ばかり読んでいる。そこへ町内の遊び人・源兵衛(げんべえ)と多助(たすけ)がやって来て、「浅草の観音様の裏手に、ご利益のあるお稲荷様があるから一緒にお参りに行こう」と誘う。
これを聞いた大旦那は、二人の一計を察して、若旦那を送り出す。見返り柳を御神木と言ったり、大門(おおもん)を鳥居と偽ったりして、なんとかお茶屋までは騙し通す。しかし、店に上がって吉原だと気づいた若旦那は「帰りたい」と泣き出す。
二人は、「大門には見張りがいて、勝手に帰ろうとすると棒縛りになるから帰れない」と脅し、若旦那も諦めて一晩を過ごすことにする。その若旦那の相手に出た花魁(おいらん)は、なんとこの店の御職(おしょく)、いわゆるナンバーワンの花魁だった……。
◆【オチ】
翌くる朝、二人が若旦那を部屋に起こしに行くと、花魁と寝ていた若旦那は、花魁にほだされて骨抜きにされていた。吉原を満喫していて、帰ろうとしない若旦那に痺れを切らした源兵衛が言う。
源兵衛「あなたは暇な体かもしれないから、ここにいてもいいけど、私らは用のある体だからこれで失礼しますよ」
時次郎「あなた方、帰れるものなら帰ってごらんなさい。大門で縛られます」

◆【解説】
昨日まで色(女性)を知らなかった若旦那が、一晩で大人の仲間入りを果たし、得意げにオチのセリフを言う様が可笑しい。まさか自分が言った嘘が、ブーメランのように返ってくるとは源兵衛も思わなかったであろう。
「明烏」という言葉は、男女の夜の契りの終わりを表す言葉で、「明烏夢泡雪(あけがらす ゆめのあわゆき)」という新内節(しんないぶし、江戸時代中期に生まれた浄瑠璃の一流派)の曲が元になっている噺である。
「ウブな男を女に目覚めさせる」と一言で言えばそんなわかりやすい噺かもしれないが、筆者は一度、お客さんの感想に悩んだことがある。「この落語は、若旦那が可哀そうに思えて笑えない」と言われたのだ。衝撃を受けた。
若旦那が可哀そう? そういう見方もあるのかと驚き、それからあらゆる演者の『明烏』を聴いてみると、確かに可哀そうに感じる場合もあり、それは同時に源兵衛と多助が必要以上に意地悪になっている時だと気がついた。自分がそう演じてしまっている時は、笑いが少なかった。
それ以降は、演じるバランスを意識するようになり、この噺も少しずつ変わってきたように思う。ただ、このオチはそんな不安を救ってくれるはずで、最後は吉原を楽しんでしまった若旦那の姿に、素直に笑ってほしいと筆者は願っている。
(毎月6日頃、掲載予定)