NEW

高館義経堂の仁王

林家きく麿の「くだらな観音菩薩」 第4回

仁王様に心ぶるぶる

 旅に出ると、“生きている自分”に会える気がするんだよなぁ。あ、別に普段、死んでるわけではありませんよ。ただ、♪知らない街を歩いてみたいんです。♪どこか遠くに行きたいんですよ、夢はるか、一人旅なんでさーね。

 だから岩手に行くと、花巻から北に行き、紫波町(しわちょう)のお寿司屋さんに行ったり、盛岡で冷麺食べたり、南下した一関(いちのせき)の道の駅で8種類のお餅食べて、「お餅、好きですかぁ~」とおばあちゃんたちに聞きまくって、ドラゴンレール大船渡線に乗って千廐(せんまや)に行き、餡かけカツ丼食べて温泉に入り、気仙沼(けせんぬま)まで足を伸ばしてアンカーコーヒー飲んで、フカヒレ食べている人を眺めたり。

 楽しいところがたくさんあるよ東北、てか食い物ばっかりかい! ズコー(またはへこー)。

 そして、なぜ岩手推しなのかと言うと、今回の仏様が平泉(いらいずみ)にある高館義経堂(たかだちぎけいどう)にいらっしゃる仁王様なのです。

 平泉と言えば、中尊寺の金色堂(こんじきどう)や、讚衡蔵(さんこうぞう)にいらっしゃる三体の丈六仏(じょうろくぶつ)などが有名ですが、観光スポットを調べたら義経堂なるものがあり、源義経(みなもとよしつね)終焉(しゅうえん)の地と書いてある! おぉぉ、『青菜』が得意ネタ(嘘)の私としては、「行かねばなるまい!」と、足を運んでみました。

 中尊寺から弁慶のお墓を挟んで、北上川の方へ少し歩きます。小高い丘の階段をえっちらおっちら登ると、途中に小さな資料館。「まあ、いいか」と、また登り始めると、源義経公、いらっしゃいました。北上川を眺めながら、座っておりました。

 そこで私は手を合わせて、「義経様、お兄ちゃんにいじめられて大変な人生でしたね、苦労判官(くろうほうがん)義経……だけに」などと、お約束の労(ねぎら)いをして、そして、帰りに小さな資料館に足を踏み入れてみたのです。

 すると、何と! そこにいらっしゃいました。今回の主役の仁王様が。

 「うわー、何じゃこりゃ」と、心がぶるぶるっとしました。凄く朴訥(ぼくとつ)としている仁王様が狭い空間の中で、荒々しい削りでギロリとした目で、こちらを見据えてくるんです。

 二の腕もやけに太いし、腰の裳(も)という布もサイズが合ってないし、顔は魚のオコゼみたいだけど、でも何だか愛おしくて、怖くて優しい仁王像。

 作った人に会ってみたいなぁ。どんな方だったんだろう? 村で「役立たずの木偶の坊(でくのぼう)」と言われていた抜作(ぬけさく)という男だったらいいな。