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落語愛を、次世代へ ~あの日の感動を、息子も知った

月刊「シン・道楽亭コラム」 第5回

30年以上追いかけた「落語愛」の原点

 そんな母が買ってきた本の中の一冊が、落語協会分裂騒動について書かれている三遊亭円丈著『御乱心 落語協会分裂と、円生とその弟子たち』だった。母が三遊亭円生師匠のファンということは知っていたが、一連の騒動については全く知らなかったので、なぜ読もうと思ったのか記憶は定かではない。円丈師匠のことも知らなかった。

 当時高校3年生だったと思う。覚えているのは、一気に読んでしまったこと。「落語界って、こんなに面白いことが次々に起こるのか」と興奮した。何度も繰り返し読み、ここに出てくる登場人物を生で見たいと思った。生まれて初めて、自分の意思で落語を聞きに行きたいと思ったのだ。

 母に「この三遊亭円丈って人の落語を聞きたい」とお願いしたら、「その本はずいぶん前に買ったもので、今の円丈はだいぶ印象が違うのよ。それと私は、円丈みたいな芸風はあまり好きじゃないのよ」と嫌な顔をした。

 芸風の違いがあるということも知らなかったので、母が好きな落語に行きたいと言っているのに、なぜそんなことを言うのかわからなかった。「どうしても聞きたい」と粘ったら、しぶしぶ寄席に連れて行ってくれた。新宿末廣亭だったと思う。でも、円丈師匠の芝居ではなかった。師匠は確か仲入り前で登場した。

 円丈師匠の第一印象は、「普通の痩せたおじさん」だった。勝手にヒーロー視していたので、ちょっとがっかりした。しかし、熱量が高く、パワフルな高座は、若かった私を一瞬にして虜にした。今まで何となく聞いてきた落語とは全く違う、落語とはこんなに面白いのか!と驚いた。

 そこから私は落語にハマった。大学生、社会人になってからは、円丈師匠と新作落語を追いかけた。仕事や子育てに忙しくて足が遠のく時期もあったが、ふと円丈師匠を思い出して情報をチェックし、円丈師匠の高座を見て落語の楽しさを思い出してまた追いかける、という繰り返しだった気がする。そして、あの時から30年以上、私にとって落語は「好きなもの」であり続けている。