〈書評〉 演芸写真家 (橘蓮二 著)
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第5回
- 落語
- 講談
- Books

杉江 松恋
2025/09/19
比類なき一冊、その奥深き構成
本書は、「落語家の肖像」と名付けられた四つの章が、「講談」や「浪曲」「色物」などのカテゴリー間に挟み込まれた形になっている。各章内の配置にも工夫があり、つながりを見て、なぜこうなったのか、と考えるだけでも飽きない。
私のベストは桃月庵白酒から桂宮治につながる162ページから165ページだ。これは視覚で考える人間ならではの配置で、よくやったものだと感心させられる。落語家連想ゲームとでも言うか、ちょっとしたメタモルフォーゼを見ているような気持ちにさせられる。こういう高座の見方をしたことがなかったので新鮮だ。本を手にしたら、ぜひこの4ページはご覧いただきたい。
はっきりとは言及されていないが、本の構成には間違いなく意味がある。実は「落語家の肖像」の章から外れて、巻頭に括り出された現役落語家が二人いる。それぞれのページに付された題名と共に言うなら、「純度100%」の桂二葉と、「伝統と現代の融合」の春風亭一之輔だ。単に人気者というだけでは説明がつかない。この二人を特別に扱った巻頭は、巻末の一章と呼応しているはずである。
巻末のその章に付された題名は「あの日の一枚」、すでに故人となったかつての大看板の、在りし日の姿を写した章である。六代目三遊亭円楽、林家正楽、鏡味仙三郎、国本武春ときて、最後は柳家小三治、立川談志で〆となる。二人の写真の後に「カリスマ落語家とレジェンド噺家」という文章が置かれている。おそらく「純度100%」と「伝統と現代の融合」の章題は、最初からページを追ってきた読者が、最後にこの巨匠二人に接し、改めて演芸とは何かを考えるであろうことを念頭に置いてつけられている。
二葉と一之輔が故人のどちらかに当てはまる、というような狭い話ではない。二人が体現しているものは何かを考えるとき、実は先人に思いを馳せることが有効なのではないか、という橘の謎掛けだ。落語界のカリスマとレジェンドに共通していたのは「“積極的に人生に迷うこと”こそ、表現する者が絶対に守り抜かなければならない矜持だと直感しているところだった」というのが橘の見た巨匠像だった。その文章を咀嚼しながら、またページを最初から繰りたくなる。
演者の表情に魅せられ、高座という空間を感じ、そこに流れている時間について思いを馳せているうちに、いろいろと演芸について考えたくなった。そういう気持ちにさせられる本である。演芸写真集として比類ない一冊だと思う。
(以上、敬称略)
(毎月19日頃、掲載予定)
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