恩人について

「すずめのさえずり」 第三回

重圧と闘志 ~本当の強さとは

 佐竹さん。あなたは当時、たった一人の日本人ヘビー級ファイターとして、K-1という巨大化していくイベントを背負っていましたね。

 寄席でトリを取るだけでも大変なプレッシャーなのに、何万人の動員がある大イベントの顔、しかも精神的な重圧のみならず肉体的にも大きなダメージを負いながらその「顔」であり続けました。

 SNSのない時代ですから、心ない誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)は今よりは少なかったでしょうが、その代わりパンチドランカーなどの実情も我々には伝わりにくく、誤解を受けることも多かったのでしょう。

 改めて見ると、ベルナルドやバンナをはじめとする外国人選手との体格差に驚かされます。おそらく90kg台がベストウェイトだったのに、彼らと戦うために増量し、それでもいかんともしがたい骨格というハンディキャップにも、決して言い訳をすることはありませんでした。

 「闘志天翔」というどこかマンガっぽいキャッチフレーズや、その陽気なキャラゆえに、真剣さを疑われることもあったと思います。私も正直ちょっとそう思っていました。

 しかし、大人になった今ならわかります。

 あなたは誰よりも空手家だった。己を高めることだけに専念するわけにはいかない環境で、負わずともよい責任を負い、多くの期待を一身に受け、それに応えようと戦い続けた。格闘技をメジャーにするために、他流派の真面目な選手に批判されながらもテレビで道化を演じ続けた。まさに押忍の精神だった。

 あなたの知らないところで、あなたの試合に感動した気弱で無気力なオタク少年は、あなたのような強い男にはなれなかったけれど、それでも一応世間と関われる程度にはなりました。

 闘志だの押忍だのという言葉は、私ごときが軽々しく口にできるものではありませんが、倒されてもなお立ち上がるその姿は、今も私の中で輝いています。

 直接ご指導いただく機会はありませんでしたが、まぎれもなく、ラジオの向こうから私を導いてくれた師であります。

 ありがとうございました。

 あの殴られた痛みに比べればね、噺が受けないことくらいはね、なんともね。……少なくともアバラにヒビは入らないからね。

 そして実戦をあきらめた私は、今日もまた、見せかけの筋肉をつけにジムに行くのでありました。おす。

古今亭志ん雀 X(旧Twitter)

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(毎月26日頃、掲載予定)