伝統を纏い、革新を語る 神田陽子(中編)

「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第12回

師匠の教えを胸に

陽子 いやあ、ないですね。これから作ります(笑)。でも、強いて挙げるなら、『二度目の清書』と『南部坂(なんぶざか)雪の別れ』ですね。師匠が愛していた演目で、私も早い段階で教わったんです。だからこの話は大事にしようと思っています。

 この一席と言われると難しいですが、何せ8時間かけて教わりましたから(笑)、その頃に習った話で、好きな話ということであれば『牡丹燈籠(ぼたんどうろう)』に、師匠から「40になってから教わったって間に合わないよ、君」と言われて、30歳前に教わった『真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)』。早くに覚えておけば、それから何十年かけていくことで、自分のものになるからって。

 うちの師匠はそうした考えを持っていて、10年かけるところは5年で、5年のところは3年で、3年のところは1年でやりなさいって。おそらく男の講釈師は息が長いけれど、女は短いと思っていたんではないでしょうか。でもあの頃、師匠から教わった話は忘れません。だからこそ、そういう話は大事にしていきたいですね。最近になって作ったり、覚えたりする話はすぐに忘れてしまいます。

陽子 『与謝野晶子』は寄席でもかけているので、どんどん短くなっていって、長いバージョンはできなくなりました(笑)。「山川登美子の告白」とか色々とあったんですけどね。 

(以上、敬称略)

神田陽子(協会員紹介 日本講談協会)

神田陽子(協会員プロフィール 落語芸術協会)

(後編に続く)