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〈書評〉 古今東西落語家事典 / 東都噺家系図

「芸人本書く派列伝 クラシック」 第5回

系図で読み解く東京落語の歴史と名跡の物語

 先に挙げた二冊のうち『東都噺家系図』をここで引っぱりだしてくる。

 著者の橘左近は、橘流寄席文字の創始者である右近の一番弟子である。落語研究家としても活動しており、『古今東西落語家事典』を執筆した諸芸懇話会にも参加している。『東都噺家系図』は東京落語家の名跡代々を誰が、いつ継いだかということを克明に調べた本である。系図で表されているので、時間と人の流れが一目瞭然に判るのが『東西落語家事典』にはない特徴だ。

 名跡ごとに系図は分かれていて、東西における近代落語興行の祖である三笑亭可楽、桂文治については、それぞれ3ページが費やされている。当然代数が多くなればページ数も増える道理で、当代まで11を数える金原亭馬生は4ページを要した。

 五代目を最後に継承者がまだ出ていない古今亭志ん生の項には2ページが使われている。ただその半分は十代目馬生の実父である五代目志ん生が用いた18の名前(うち古今亭甚語楼は2回)を記すのに使われているのである。それがいかに型破りであったか、ということが系図を眺めれば自ずと理解できる。

 三遊亭百生から始まって、基礎資料の話になった。この2冊を押さえておけば、名跡に関することはだいたい理解できると思う。Wikipediaなどの記述もここから採ったものが多いし、SNSに流れてくる風聞・邪説に惑わされることもないだろう。

 何年か前にアマチュア落語家が司馬龍生を名乗ると宣言して物議を醸した時期があったが、そのときも真っ先にこの2冊に目を通した。その結果、ああ、この名跡だから起きた珍事だったのだな、と納得したのであった。どういうことかは、実際に目を通していただきたい。古書価は少しするかもしれないが、図書館などには置いてある本なので。

(以上、敬称略)

現在は絶版となっている
  • 書名 : 古今東西落語家事典
  • 編者 : 諸芸懇話会/大阪芸能懇話会
  • 出版社 : 平凡社
  • 書店発売日 : 1989年4月
  • ISBN : 9784582126129
  • 判型・ページ数 : A5判・458ページ
  • 定価 : ―
現在は絶版となっている
  • 書名 : 東都噺家系図
  • 著者 : 橘左近
  • 出版社 : 筑摩書房
  • 書店発売日 : 1999年1月
  • ISBN : 9784480877130
  • 判型・ページ数 : A5判・264ページ
  • 定価 : ―

(毎月29日頃、掲載予定)