後継

「座布団の片隅から」 第7回

甘い記憶

 さて、そんな九重町に古くからある梅の家は、私も子供のころから通っていたお菓子屋さんだ。

 パンはもちろん、ブランデーケーキや、ゆず羊羹などハイクオリティなお菓子の数々が、信じられないぐらいリーズナブルな価格で陳列されている。小・中学校当時は、校則で買い食いが禁止だったから、小銭を握りしめて先生の目を盗んでこっそり店に入ったものだ。

 いろんなお菓子がある中で、僕は特にブランデーケーキが大好物だが、子供のころはお酒が入っていることもあり、魅力があまりわからなかった。しかし、大人になってから改めて食べたときにぶっ飛んだものだ。カステラのような見た目のケーキに、しっとりとよく染み込んだブランデーの香りが広がる上品な味に衝撃を受けた。しかも、値段が1斤で850円!!

 一体どうなっているのか。東京なら3~4倍の値段で取引されるようなクオリティのブランデーケーキである。やはり人気のようで、県外からも多くのお客様がブランデーケーキを求めて、はるばる九重町まで来るらしい。本物のゆずを使ったゆず羊羹も名物で、皮の苦みが美味しさをグッと引き立てる。

ブランデーケーキ

 また、冬季限定の「アルプス」という名前のケーキもオススメだ。バナナがたっぷり入ったカスタードクリームと生クリームをスポンジケーキで包み、上にイチゴが添えられたおケーキだ。これは生菓子なので、東京に持って帰って食べるのが難しい。

 子供のころは「アルプス」が全国のケーキ屋にあると勘違いしていたものだ。梅の家以外で見たことがない幻のケーキ。今でも僕の一番好きなケーキは梅の家の「アルプス」である。二番がショートケーキ。アルプスがどこにもないから、我慢してショートケーキを食べているというわけだ(笑)。