麹町の雑煮、目白のおせち

「二藍の文箱」 第8回

お椀のなかの日本地図

 わが家のも、青菜、鶏肉、三つ葉、餅と実に簡素な関東の雑煮であった。だから、地方の雑煮に憧れがつよい。そう、大袈裟でなくそれは憧れだ。

 わたしが物心ついてからは関東の雑煮だったが、母方の実家は富山県滑川で、越中富山の薬売の売薬さんに薬をおろしていた。なので、母の子どものころの雑煮といえば、濃いめの出汁に有頭海老、焼豆腐、丸人参、大根、牛蒡のささがき、それに角餅が入る。確かに、そんな雑煮を食べた記憶がわたしにもあった。

 正月の飲み屋や食堂に雑煮があると、つい頼んでしまう。浅草演芸ホール近くの食堂には年百年中、雑煮があって、あれも好きだ。汁物をアテにするのも悪くない。そういえば、以前銀座に、自分好みに雑煮をカスタムできる店があったが、いまはない。

 ものは試しに、弟子の歌坊に訊いてみると「非常にシンプルで、餅のほかにナルトと三つ葉のみ入っております」。鶏肉すら入ってないらしい。

 おもしろくなってきた。

 一緒に会をやっている春風亭三朝と林家はな平にも訊いてみる。

 大分県の豊後大野出身の三朝の実家では、いりこ出汁に麦味噌、鶏肉と正月菜、大根、人参、餅が丸餅。同じ九州でも福岡出身のはな平の実家が、塩ぶりに青菜はかつお菜、大根、人参、丸餅。正月菜はもち菜で小松菜に似た野菜、かつお菜はアブラナ科の野菜で、福岡の伝統野菜というから、どちらもやはりご当地の雑煮ということになる。

 三朝としばらくお雑煮談義となる。先ほどの雑煮の専門店のはなしではないが、三朝の師匠、春風亭一朝師匠宅のお雑煮は師匠が鶏肉を食べないので、豚。どちらかのご親戚に京都の方がいて、そこからいただく、丸餅。ベースになる関東雑煮に、豚と丸餅。おお、これこそまさにカスタマイズ雑煮のクラフト雑煮。パイポパイポパイポのシューリンガン。