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2026年1月のつれづれ(追悼 名人・伊丹秀敏)

月刊「浪曲つれづれ」 第9回

もっともっと聴きたかった

 伊丹秀敏が名人たる所以はその自由闊達さにあり、誰に対しても違和感なく合わせてしまい、相手が技量の持ち主だと見るや、難度の高い節も繰りだして舞台の完成度を一段も二段も上げてしまう。

 共演した中には「あなたならこのくらいできるでしょう」とハードルを上げられた経験の持ち主もあり、芸惜しみをさせない厳しさもあったようだ。数多の名人を弾いてきたという自負と、体に染みついた三味線の音色が元からの才能をさらに押し上げた。

 浪曲師・浜乃一舟としては、上にある「三日の娑婆」や「男の花道」、珍しい競馬実況のある「愛馬の誉」などをよく手掛けた。山場で極カン(非常に高い音)の長く長く伸びる節を繰り出すと、観客は幸せのシャワーを浴びているような気持ちにさせられたものである。口中から発射されたビームが見えるような気持ちになった。

 自分の出番が終わると観客席に回り、顔馴染みのお客さんに「今のどうだった」と聞いてまわる無邪気な一面もあった。浪曲が好きで好きでたまらず、自分が舞台に立つのも大好きだったのである。

 一昨年前、八十八歳のときに米寿記念の会が予定されていたのだが、諸事情により延期となった。常に元気な秀敏=一舟なので、そのうちに代理公演があるだろうと思っていたが、体調を崩されたのか、木馬亭定席への出演も途絶え、今回の訃報と相成った。

 いつも木馬亭にいた人だけに、その不在が堪える。もっともっと聴きたかった芸人だった。米寿記念のチケットは、今も手元にある。