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2026年1月のつれづれ(追悼 名人・伊丹秀敏)

月刊「浪曲つれづれ」 第9回

「常さんに弾いてもらいたい」

 個人的な体験ゆえ、ここからはさんづけでお呼びする。

 2024年11月に、浪曲親友協会の重鎮・松浦四郎若さんの東京公演を企画した。二日間で四席、四郎若を聴けるという他にない趣向の会である。このときご本人に、東京で口演するに当たって何かご要望はないか、と伺ったところ、こういう答えが返ってきた。

「福太郎のかみさんに弾いてもらえたら嬉しいですな。あと、いろいろな人に弾いてもらったんですけど、まだ常さんだけはないんです。常さんに弾いてもらいたいです」

「福太郎のかみさん」とは、故・二代目玉川福太郎さんの妻であった玉川みね子さんである。福太郎さんと四郎若さんは親友の間柄だった。常さんは、もちろん本名・常敏の伊丹秀敏さんのことだ。四郎若さんの意を伝えると、ご両人とも承諾してくださった。

 こうして公演では、普段関西節を弾かない玉川みね子さんが四郎若さんの曲師を務め、二日間の最後を締める「勧進帳」の一席では四郎若・秀敏共演が実現したのである。前もっての稽古は何もなし、一発勝負の息がぴったり合い、どちらも素晴らしい舞台となった。

 終わって近くの店で打ち上げを開いたところ、珍しく秀敏さんがいらっしゃり、四郎若さんの隣に座った。非常に嬉しそうな表情で「よかったね。また東京に来るでしょ。またやろうよ」と四郎若さんに話しかけていたのを覚えている。