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国境を越えて

古今亭佑輔とメタバースの世界 第6回

国境を越えて

VRChatで海外のお客様に向けて、英語落語を口演する筆者

古今亭 佑輔

執筆者

古今亭 佑輔

執筆者プロフィール

父の言葉

 「日本人は海外に出るべきである。自国の文化を色濃く残している日本文化は、海外に受け入れられる」

 これは自分の父が昔から言っていたことで、何度も言われるうちに自分の心に染みついた言葉である。留学経験もあり、英語落語を仕事としてやっている自分としては、ある意味YESで、ある意味NOであると感じる。

 たしかに、日本は島国であり、歴史的に外国の影響を受けづらい時代もあった。その頃の日本文化は混じり気のないまま、現代まで受け継がれているものもあると思う。

 そして、日本文化に興味を持ってくださる海外の方は多くいる。

 自分はリアル公演だけでなく、海外の方に向けてVR日本文化紹介ツアーで英語落語を定期的に口演している。そういう公演を行っていると、日本文化に興味を持って熱心に聞いてくださる方が非常に多く、驚かされる。

 人にもよると思うが、大陸続きの方々にとって案外、文化の違いはエンタテインメントとして観る分には受け入れやすいことなのかもしれない。その点は島国である日本とは逆だ。

 しかし、日本の文化が海外で定着するとは楽観的には思えない。たしかに初めは面白がってもらえることもあるのかもしれないが、興行として定着し、お金を生み出すことは中々容易ではない。その点でNOだ。

英語落語をやるメリット

 では、なぜ英語落語をやるのか。

 両親に留学をさせてもらった手前、意地でも仕事に活かしたいという気持ちもある。というのは半分冗談であるが、半分は本気である。

 答えは、日本文化を知ってもらうきっかけとなり得るからである。日本文化を好きになってもらえるなら、きっかけがなんであれ構わない。酒や食文化でもよいし、映画やアニメでもよい、歌舞伎や美術品でもよい。

 ただ、それが落語なら、なおさら嬉しいということである。

留学時代

 落語は本来、大衆文化である。日本の古くからの生活に根ざしたものであるがゆえに、これほど日本人という人種を説明するのに便利な方法はない。

 噺の背景をしっかりと説明すれば、日本人という人種や当時の時代背景が見えてくる。それはある種エンタテインメントとして海外の人に受け入れられる。

 たとえ落語が海外で普及はしなくとも、それだけで十分に価値があると考える。