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2025年6月の最前線【前編】(軍談が今、面白い!~津の守講談会・軍談ウィーク)
「講談最前線」 第2回
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「軍談倶楽部」の誕生
〈頃は令和三年神無月十三日、東京の講釈師、両国は江戸東京博物館に於いて、張り扇の調子を整え、軍談に心得のある者居並び、軍談は永遠に不滅ですと雷発なし、その勢いに乗じて、軍談倶楽部なる会を始むる!〉
軍談の代表作とも言える『三方ヶ原軍記』を借りてみたが、2021年(令和3年)10月3日は、驚くような、そして講談ファンが「待ってました!」と、張り扇ではなく、膝を叩くような会が始まった日だ。
その名も「軍談倶楽部」(現・「軍談道場」)。1964年(昭和39年)に開かれた東京オリンピックの入場行進を、修羅場の口調で読み上げて人気を得た田辺一鶴を大師匠に持つ、田辺銀冶の肝煎りで始まった会だ。
その時の会にかけた思いを銀冶は、こう語る。
2021年5月に真打に昇進し、これからは自身の芸道精進はもちろんですが、講談界全体の発展と後進の育成にも尽力しなければと考えた時に、企画第一弾として「軍談だ!」と思いたちました。一鶴師匠が『講談は軍談に始まり軍談に終わる』とよくおっしゃっていたので、一番最初に思い浮かんだのです。
講談師にとって大切な読み物ですが、私が入門した頃には、前座が『三方ヶ原軍記』をかけるぐらいで、先生方はどういう風に『三方ヶ原』を読まれるんだろう、『三方ヶ原』だけでなく他の軍談も是非聞いてみたい!とずっと思っておりました。
真打になっても先輩の軍談を聞く機会は増えませんでしたので、それなら自分で企画をしよう。そして先輩から後輩まで幅広い出演者に出ていただき、また協会にこだわらず神田のご一門や上方の先生方にもお願いしたいと思っていました。
軍談の魅力を再発見したい! 軍談に光を当てたい!と、その思いで当初は年二回のペースで始めた軍談企画です。
「講談は軍談にはじまり、軍談に終わる」のは、先でも記した通りのこと。
以前より軍談に力を入れ、手前味噌になってしまうが、向じま墨亭で『三方ヶ原軍記』や『賤ヶ岳合戦』、そしてこの7月からは『山崎軍記』を読み始める宝井琴凌も、「ベテランや大御所の先生になると、どうしても定席等で軍談をかけづらくなるのか、軍談を聴ける機会が少ない」と話すように、今や講談界においての「軍談」の貴重性を示している。
一方で、厳しい見方をすれば、「軍談」が“読める”前座や二ツ目が少なくなっている感も強い。これは修業の場とも言うべき、講談の定席数が少ないという問題もあろう。
以前に、現代の修羅場読みの名人である宝井琴柳が「前座は修羅場を読んでいればいい」と話していたのが記憶に残る。やはり講談にとって、「軍談」そして修羅場は基本にあるものなのだ。