鈴之助の弟子入り志願物語 (後編)
鈴々舎馬風一門 入門物語 第14回
- 落語
鈴々舎 鈴之助
2025/07/12
無知と無謀の先にあった希望の扉
終演後も高揚した気持ちは収まりません。もうその日のうちに鈴本演芸場から出てくる師匠を待ち受け、「弟子にしてください!」とお願いしました。
師匠は少し困惑されていましたが、「うちは親の承諾がないと弟子は取らないから、親を連れてこい」と言われ、その日は別れます。
後日、親の承諾を得たことを師匠にお伝えすべく、師匠が出演する新宿末廣亭に。その日の師匠は、十八番の『会長への道』を演じていました。鈴本演芸場で見た師匠とまったく違い、前回と別人のような雰囲気に困惑しましたが、高座に羽織を置いていったのを見て、「この師匠は、相当偉い方だ。弟子入りして間違いない」と確信しました――が、当時の私は、なりたての真打でも羽織を置いていくことを知らないほど、何も知らない奴でした。
ほどなく楽屋から出てきた師匠に、親の承諾を得たことを伝えると、名刺をいただき、師匠のご自宅に挨拶に伺う運びに。
日を改め、師匠とお内儀さんの待つ自宅に、親父と二人で緊張しながらご挨拶に伺います。やがて、お内儀さんから「噺家というのは凄く大変で、食べていくのも簡単じゃないですよ。息子さんは大丈夫ですか」と聞かれました。すると親父が「根性だけはあるから、大丈夫だと思います」と答えたのがお内儀さんに気に入られたらしく、入門を認めていただきました。
とはいえ、後になって聞いた話では、お内儀さんは私を見て「すぐに辞めるのではないか」と思っていたそうです。
カセットテープに残る「むかしむかし」
翌日から早速、修行が始まります。朝八時までに師匠のご自宅に行き、お内儀さんからまず掃除の仕方を教えていただきます。掃除をすることにより、謙虚さや奉仕の精神を養い、自我や執着を捨てる鍛錬を学びましたが、強情さは今もなかなか治りません。
自分のそんな性格が原因でお内儀さんをよく怒らせ、私の茶碗と箸をゴミ箱に捨てられたこともありました。田舎者の私は、ご飯の食べ方から何から何まですべてお内儀さんに教えていただきました。師匠はもとより、お内儀さんには本当に感謝しきれないほどの恩を感じています。
自分では田舎者と言っていますが、東京の人とそんな変わりはないと思っていたので、お内儀さんから訛りを強く指摘された時は本当にびっくりしました。そこで落語を稽古する前に、訛りを矯正するため、昔話の本を買ってくるように言われ、『竹取物語』を買っていき、これを訛りなくきちんと読む訓練をさせられました。
私が「むかしむかしあるところに」と読むと、「違う違う、『むかしむかしあるところに』」と、お内儀さんが読み、「『むかしむかしあるところ』が訛ってる」と違いを聞かされます。しかし、何度やっても「違う、『むかしむかしあるところ』」と先に進めず、「むかしむかしあるところに」を何度もやらされます。お内儀さんの嫌がらせにあって、クビにされるのではないかと恐怖心を抱いたほどでした。
お内儀さんに「自分の読んでいるところをカセットテープに録音して聞いてみなさい」と言われ、録音して聞いてみたけれど、当時の私はまったく訛りを感じられず、「むかしむかし」を呪ったもんでした。そのカセットテープが今でも手元に残っていて、今聞いてみると「こんなに訛っていたのか」と驚愕します。でも残念なことに、訛りは未だに健在で……。
大師匠の五代目柳家小さんの鞄持ちをしていた時、大師匠に私の落語を聞いていただいたことがあり、「師匠、どこか訛っていましたか」と伺いましたら、大師匠が「どこがじゃなく、全体が訛っている。お前はそれでいい」と言われ、恥ずかしい思いをしました。
こんな田舎者の私を根気よく指導してくださったお内儀さんこそ、本当の師匠ではないかと、今でも思っています。
いま読まれています!
「べべログ 心がホワ~ンとするグルメ」 第4回
ブルースの聴けるおでん屋 kazeさんの「蟹面」(石川県加賀市)
~甲羅の中に詰まった「内子」と「哀愁」
笑福亭 べ瓶
2025/12/20
「エッセイ的な何か」 第7回
12/17は、飛行機の日 →初フライトでCAさんの神対応に震えた男の純真
~知らないというのは恐ろしいことなのである
三笑亭 夢丸
2025/12/19
「かけはしのしゅんのはなし」 第7回
変わり者が集まっている世界で、「変わっている」と言われた日
~それは豊かな発想力と好奇心の証!
春風亭 かけ橋
2025/12/18
「講談最前線」 第13回
2025年12月の最前線【後編】 (2025年の講談界ニュース)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2025/12/17
「講談最前線」 第12回
2025年12月の最前線【前編】 (「イベントスペース鈴丸」オープン、講談のオススメ入門書③)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2025/12/15
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第4回
上方落語大会議「なんぼでなんぼ」
~苛酷な仕事、ギャラなんぼやったら行く?
桂 三四郎
2025/10/24
「講談最前線」 第11回
2025年11月の最前線 (聴講記:神田松麻呂・神田鯉花 連続読み、神田春陽の会)
~リレー講談「寛永宮本武蔵伝」と、緩急自在の「大岡政談」
瀧口 雅仁
2025/11/17
「かけはしのしゅんのはなし」 第6回
大会後のご褒美は、魅惑のナポレターナとプロシュート!
~11月20日は、ピザに恋する日!
春風亭 かけ橋
2025/11/18
「令和らくご改造計画」
第一話 「危機感をあなたに」
~笑撃のストーリーが今、始まる!
三遊亭 ごはんつぶ
2025/08/12
「べべログ 心がホワ~ンとするグルメ」 第3回
グリル梵さんの「ヘレカツカレー煮込み」(大阪市浪速区)
~たっぷりソースに、サックサクの衣
笑福亭 べ瓶
2025/11/21
「講談最前線」 第12回
2025年12月の最前線【前編】 (「イベントスペース鈴丸」オープン、講談のオススメ入門書③)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2025/12/15
「くだらな観音菩薩」 第8回
弥勒菩薩(半跏思惟像)
~地球滅亡の時に現れるスーパースター
林家 きく麿
2025/12/16
「かけはしのしゅんのはなし」 第7回
変わり者が集まっている世界で、「変わっている」と言われた日
~それは豊かな発想力と好奇心の証!
春風亭 かけ橋
2025/12/18
「講談最前線」 第13回
2025年12月の最前線【後編】 (2025年の講談界ニュース)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2025/12/17
シリーズ「思い出の味」 第11回
食べ物が詰まった、師匠桂三金の思い出と棺桶
~焼肉は落語
桂 笑金
2025/08/17
「令和らくご改造計画」
第五話 「ヨセジャック事件」
~落語家にとってのマクラとは何か?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/12/12
「エッセイ的な何か」 第7回
12/17は、飛行機の日 →初フライトでCAさんの神対応に震えた男の純真
~知らないというのは恐ろしいことなのである
三笑亭 夢丸
2025/12/19
「噺家渡世の余生な噺」 第8回
旅こそ、己の浅さを知る手段。だから若いうちに出る
~「まだ自分は生きている」と感じるために
柳家 小志ん
2025/12/14
「べべログ 心がホワ~ンとするグルメ」 第4回
ブルースの聴けるおでん屋 kazeさんの「蟹面」(石川県加賀市)
~甲羅の中に詰まった「内子」と「哀愁」
笑福亭 べ瓶
2025/12/20
「二藍の文箱」 第7回
つくまとさわぎとクリスマス・キャロル
~初高座は一生に一度だから
三遊亭 司
2025/12/02
シリーズ「思い出の味」 第16回
師匠と香港楼と命名秘話
~緊張と感謝の中で頬張った麻婆豆腐
神田 紅純
2025/12/04
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第5回
落語家の夢
~俺の目は、まだ濁っていない!!!
桂 三四郎
2025/11/27
「講談最前線」 第12回
2025年12月の最前線【前編】 (「イベントスペース鈴丸」オープン、講談のオススメ入門書③)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2025/12/15
「オチ研究会 ~なぜこのサゲはウケないのか?」 第8回
にらみ返し、大工調べ、短命
~私の落語家人生を延命してくれた、喜多八師匠
林家 はな平
2025/12/06
シリーズ「思い出の味」 第15回
水茄子とジンジャーエール
~夏の青臭さ、生姜風味の泡沫が映す情景
林家 彦三
2025/11/25
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第18回
優しさと知性で物語を紡ぐ 田辺一邑(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/11/29
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第8回
今日は宇宙一の美が誕生した日
~読むと元気になる千春ワールド!
東家 千春
2025/12/03
「令和らくご改造計画」
第五話 「ヨセジャック事件」
~落語家にとってのマクラとは何か?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/12/12
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第19回
優しさと知性で物語を紡ぐ 田辺一邑(中編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/11/30
「ピン芸人・服部拓也のエンタメを抱きしめて」 第7回
百花繚乱! 10人組の落語家ユニット「芸協カデンツァ」がやって来た【前編】
~世代を超えた多種多様、香味全開のおもしろユニット!
服部 拓也
2025/11/20
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第5回
落語家の夢
~俺の目は、まだ濁っていない!!!
桂 三四郎
2025/11/27
シリーズ「思い出の味」 第15回
水茄子とジンジャーエール
~夏の青臭さ、生姜風味の泡沫が映す情景
林家 彦三
2025/11/25
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第4回
上方落語大会議「なんぼでなんぼ」
~苛酷な仕事、ギャラなんぼやったら行く?
桂 三四郎
2025/10/24
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
月刊「シン・道楽亭コラム」 第7回
シン・道楽亭、誕生前夜から今へと続くキャリー・ザット・ウェイト
~すべては菊太楼師匠との駄話、駄飲みから始まった
シン・道楽亭
2025/11/13
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第7回
ビールの秋、日本酒の秋、わたしの美が深まる秋
~浪曲師の日記が、ここまで笑えていいんですか!
東家 千春
2025/11/03
「令和らくご改造計画」
第五話 「ヨセジャック事件」
~落語家にとってのマクラとは何か?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/12/12
「マクラになるかも知れない話」 第三回
となりは鼻うがいをする人ぞ
~ねぇママ、パパは何をしているの?
三遊亭 萬都
2025/10/22
「くだらな観音菩薩」 第6回
鑑真和上
~そう、諦めちゃあいけないんだ
林家 きく麿
2025/10/16
「ピン芸人・服部拓也のエンタメを抱きしめて」 第7回
百花繚乱! 10人組の落語家ユニット「芸協カデンツァ」がやって来た【前編】
~世代を超えた多種多様、香味全開のおもしろユニット!
服部 拓也
2025/11/20
編集部のオススメ
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第5回
落語家の夢
~俺の目は、まだ濁っていない!!!
桂 三四郎
2025/11/27
シリーズ「思い出の味」 第15回
水茄子とジンジャーエール
~夏の青臭さ、生姜風味の泡沫が映す情景
林家 彦三
2025/11/25
「くだらな観音菩薩」 第7回
目青不動
~人の縁に感謝。ありがとうございます
林家 きく麿
2025/11/16
月刊「シン・道楽亭コラム」 第7回
シン・道楽亭、誕生前夜から今へと続くキャリー・ザット・ウェイト
~すべては菊太楼師匠との駄話、駄飲みから始まった
シン・道楽亭
2025/11/13
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
「ラルテの、てんてこ舞い」 第5回
雀々が残した大提灯
~今もたくさんの人に愛される桂雀々師匠
ラルテ
2025/11/10
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第7回
ビールの秋、日本酒の秋、わたしの美が深まる秋
~浪曲師の日記が、ここまで笑えていいんですか!
東家 千春
2025/11/03