馬琴と琴星と琴鶴と琴人と ~師弟の食事はいつもちぐはぐ
シリーズ「思い出の味」 第14回
- 講談
宝井 琴鶴
2025/10/17
今も思い出す、懐かしい味と、かけがえのない時間の記憶
大師匠の教えと老舗の味
入門したころは、大師匠の六代目馬琴(ばきん)について歩いた。
私に「琴柑(きんかん)」という前座名を付けてくれたのは、大師匠のおかみさんだ。「私、金柑(きんかん)が好きでよく食べるから、琴柑、いいんじゃないの」と。
大師匠の馬琴も「大師匠と呼ばれるのは嬉しいもんだな」と、初めての孫弟子をかわいがってくれた。時折、ちょっといい感じの老舗蕎麦屋にも連れて行ってくれて、「いつも安いのばかりでなくて、こういうちゃんとした蕎麦屋も経験しといたほうがいいんだ」と言ってくれた。
ある時には、「琴柑、どじょう食ったことあるか?」と木馬亭の帰りに浅草のどじょう屋へ。大師匠は一人に一つずつ、どじょう鍋を頼んでくれたが、せっかちなのか、メニューを見落としているのか、あるいは面倒なのか、ネギやささがきゴボウなどのトッピングを一切頼まない。
そして骨抜きの食べやすい方でなくて、通な丸のままのどじょうを選んだ。
やがて用意されたのは、濃いめの割り下の中にびっしりのどじょう(どじょうオンリー!)。煮えたかと思うと、せっかちな大師匠はちょちょっと箸でつっついて、
「あんまりうまいもんでもないな。あとはお前が食え」
と言って、とっとと食事を終えてしまう(美味しく感じられなかったのは、トッピングがなかったからだと思う!)。
ご馳走いただく下の者として、完食は必須。また、こちらが食べ終わるのを大師匠が待つことになり、今にも帰りたそうにしている。ほぼ小鍋二つ分、二人前の丸々としたどじょうを数十匹、猛スピードで一気呵成(いっきかせい)に平らげた。トッピングはないし、とげとげの骨はあるし、しんどかった……。
しかし翌朝、コラーゲンのおかげか、お肌がぷるんぷるん。どじょうパワー、凄い。

この時は焦っていたので味などわからなかったが、数年後に仕事先の方々と再訪の機会があった。
今度は、どじょうのふっくりとした身のうまさと、どじょうの出汁がしみたゴボウの深い味わいに舌鼓。なにより「私、以前にも、ここのどじょうを頂いたことありますよ」と気取ることができた。
大師匠が「老舗の食べ物を経験させてやろう」とご馳走してくれたことは、後々じんわり、私の人生に効いてくるようだ。
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