馬琴と琴星と琴鶴と琴人と ~師弟の食事はいつもちぐはぐ
シリーズ「思い出の味」 第14回
- 講談
宝井 琴鶴
2025/10/17
辛味チキンとサンドウィッチ、師弟の愛おしい失敗談
さて、数日後に迎えた新年。すがすがしい気持ちで師匠に正月の挨拶をすると、とたんに
「キミ、ボクちゃんのチキン食べちゃった」
「??……なんでしょう?」
「年末のサイゼリヤ」
「はい、辛味チキンも頂きました」
「そのボクのかじりかけたチキン、キミが……」
「えっええ!? 私が、師匠の食べかけを!?」
「うん。『ああ、そのチキンはボクちゃんの……!』って思った時には、もう皿から奪って食べてた」
「たいへん申し訳ございません!!!!!」
いくら師弟とは言え、『師匠のかじったものを食べさせられるのは嫌だ』と思っていたのに。酔っぱらったあげく、頼まれてもいないのに、師匠のかじったものを奪ったとは……(ひぃぃ!)。大失態の反省からスタートした正月であった。
以来、定番で無難で安心なはずのサイゼリヤの「辛味チキン」を見るたび、強烈なしくじりを思い出し、心がザワつくようになってしまった。

(クリックすると拡大します)
それからまた時が流れて、私も真打に昇進し、大師匠の前名「琴鶴(きんかく)」を襲名。若輩ながらも、弟子一人を持つ身となった。
都内の地域寄席に、弟子と伺った際のこと。控室には、地元のパン屋のサンドウィッチが軽食として、一人に一パックずつ用意されていた。私は食べきれず、パックの半分、トマトレタスサンドや玉子サンドを残した。
美味しかったし、そのまま置いて帰るのは、せっかく出してくれた主催者に悪い。そこで弟子の琴人(きんと)に『食費を節約しているみたいだし、キミが持ち帰って、おやつに食べれば…』との考えから、気安く「これ、持って帰ってくれる?」と手渡した。
すると一瞬、23歳男子が「ぎょっ」として、妙な間ができた。まだ社交術を身につけられていない素直すぎる顔に『コレヲ、ボクガ、タベルンデスカ?』と書いてある。令和のコロナ禍に「個食」「ディスタンス」で育ってきた世代だ。

(はっ。これは距離感をミスった!)
「……ああ、えーっと、悪いけど持ち帰って処分してね。ここに残していくと主催に悪いから、家で処分して」と気まずく言い訳する。
かじりかけではないけれど、他人がつついたパックの残り飯なんて、失礼だったな。ごめん。帰り道に、ちょっといいものをご馳走してごまかした。
おかげさまで、来年もまた同じ会に出演予定。また美味しいサンドウィッチを頂けるだろう。でも、前年の記憶で、ひりりと切ない味がするかも。
師弟での食事は、人間修行。いつもちぐはぐで、かみ合わないが、なぜかすこしだけ愛おしい――。
※筆者の最新刊のご紹介です。
(了)
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