2025年8月のつれづれ(「浪曲陰陽師 琵琶玄象」、「浪曲巷説百物語 小豆洗いの巻」、注目の公演)
月刊「浪曲つれづれ」 第4回
- 浪曲

杉江 松恋
2025/08/10
京極夏彦の物語が浪曲に! 熱狂の北とぴあ公演
小田原公演から一週間後の7月19日、今名前を挙げた北とぴあにおいて、真山隼人・沢村さくらコンビによる「浪曲巷説百物語 小豆洗いの巻」が行われた。
会場は予約だけで満員札止めとなった。事前に原作者である京極夏彦氏が来場され、トークコーナーに登壇されることが告知されていたことも大きかったはずである。普段、浪曲の興行では見かけない方が多く来られており、ジャンル外に話題が届いたことが実感できた。京極ファンは熱く、サイン入りの『巷説百物語』は瞬く間に完売してしまった。大阪会場での販売分も持って行っていたのに、嬉しい計算違いである。
初めて浪曲を聴く人向けのレクチャーで舞台は始まり、最初の演目「浪曲京極夏彦物語」に入る。京極夏彦氏が『姑獲鳥の夏』を講談社に持ち込んだ際のデビュー秘話を浪曲化したもので、連作の序に当たるのだという。大きな笑いが何度も起こり、つかみとしては十分であった。続いてトークコーナーである。杉江が進行役を務め、京極氏と真山隼人が文芸浪曲というものについて討論する。ここで中入りとなった。さあ、本編である。
会場の灯りが落とされ、舞台のみが仄明るく照らし出される。「小豆洗いの巻」の舞台は越後・枝折峠(しおりとうげ)だ。円海という僧侶が降りしきる雨のために足止めをされ、山小屋にてしばし休息をとる。そこに居合わせた者たちが、誰からともなく物語を始めるのである。
本編で重要なのは川の流れだ。小豆洗いという妖怪に本来姿はなく、水音に混じって小豆を研ぐような音が聞こえるということから怪異が始まる。その音をどのように表現するか。隼人とさくらの用いた戦術は巧妙だった。
初めは隼人が口にする「しょきしょき」という音声に、さくらの三味線が重ねられ、それが小豆を研ぐときのものだと印象づけられる。そのことによって、次からは隼人の声がなくとも、三味線だけで小豆を研ぐ音だとわかるのである。それ以外にもさくらの三味線は雄弁で、特に序盤、円海が沢を彷徨う場面での水音表現には感心させられた。
この話にはもう一つ、重要な音がある。主人公・御行の又市による決め台詞「御行奉為(おんぎょうしたてまつる)」に重ねて鳴らされる鈴だ。手持ちの鈴なので決して大きな音ではない。それをどのように聴かせるか。三味線で表現したとして、鈴として観客の耳に届いてくれるか。勝負どころである。成功したか否かは、当日お聴きになった方のご判断にお任せしたい。

「浪曲巷説百物語 小豆洗いの巻」第二回公演は、大坂・朝日生命ホールにて8月16日に開催される。同じく京極夏彦氏もトークゲストに来られる予定である。第一回を聴き逃して残念に思っている方、もし大阪行きが可能であればぜひお勧めしたい。
▼第二回公演の詳細は、「浪曲師 真山隼人オフィシャルサイト」でご参照ください。
いま読まれています!

「二藍の文箱」 第5回
異国の路地、迷子の入口
~誰もしらない自分に出会う旅

三遊亭 司
2025/10/02

「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第4回
〈書評〉 悪いものが、来ませんように (芦沢央 著)
~壊れゆく絆と親子の愛

笑福亭 茶光
2025/09/30

「酒は“釈”薬の長 ~伯知の日本酒漫遊記~」 第3回
三合目 ~京都漫遊記 〈壱〉
~幕末ロマンと伏見の名酒を楽しむ、幸せな旅

松林 伯知
2025/10/01

「まだ名人になりたい」 第4回
そして現実へ
~私はまだ人から褒められたいのです!

柳家 さん花
2025/08/01

「テーマをもらえば考えます」 第2回
名月
~世の中で最強なのは団子だよね!!

三遊亭 天どん
2025/09/30

「まだ名人になりたい」 第3回
泣きっ面にう○○
~私はゴッホだ! あなたもゴッホだ!

柳家 さん花
2025/07/02

「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第3回
言霊のブーメラン
~上方落語の打ち上げよ、永遠なれ!

桂 三四郎
2025/09/25

「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」第13回
伝統を纏い、革新を語る 神田陽子(後編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー

瀧口 雅仁
2025/09/29

三遊亭朝橘の「朝橘目線」 第1回
ここもカフェ?と思って見ると美容院
~私なりのコーヒー愛

三遊亭 朝橘
2025/05/08

「エッセイ的な何か」 第3回
8/31は、野菜の日 →ミョウガ21本を食べた男の記憶
~落語『茗荷宿』のウソとホント

三笑亭 夢丸
2025/08/19

「テーマをもらえば考えます」 第2回
名月
~世の中で最強なのは団子だよね!!

三遊亭 天どん
2025/09/30

「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第4回
〈書評〉 悪いものが、来ませんように (芦沢央 著)
~壊れゆく絆と親子の愛

笑福亭 茶光
2025/09/30

「酒は“釈”薬の長 ~伯知の日本酒漫遊記~」 第3回
三合目 ~京都漫遊記 〈壱〉
~幕末ロマンと伏見の名酒を楽しむ、幸せな旅

松林 伯知
2025/10/01

「二藍の文箱」 第5回
異国の路地、迷子の入口
~誰もしらない自分に出会う旅

三遊亭 司
2025/10/02

「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第3回
言霊のブーメラン
~上方落語の打ち上げよ、永遠なれ!

桂 三四郎
2025/09/25

「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」第13回
伝統を纏い、革新を語る 神田陽子(後編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー

瀧口 雅仁
2025/09/29

「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第11回
伝統を纏い、革新を語る 神田陽子(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー

瀧口 雅仁
2025/09/27

「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第12回
伝統を纏い、革新を語る 神田陽子(中編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー

瀧口 雅仁
2025/09/28

「二藍の文箱」 第4回
かたばみ日記 令和7年 夏
~暑い夏もまた愉しい

三遊亭 司
2025/09/02

「まだ名人になりたい」 第4回
そして現実へ
~私はまだ人から褒められたいのです!

柳家 さん花
2025/08/01

「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第11回
伝統を纏い、革新を語る 神田陽子(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー

瀧口 雅仁
2025/09/27

「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第4回
〈書評〉 悪いものが、来ませんように (芦沢央 著)
~壊れゆく絆と親子の愛

笑福亭 茶光
2025/09/30

「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第12回
伝統を纏い、革新を語る 神田陽子(中編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー

瀧口 雅仁
2025/09/28

「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」第13回
伝統を纏い、革新を語る 神田陽子(後編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー

瀧口 雅仁
2025/09/29

「芸人本書く派列伝 クラシック」 第5回
〈書評〉 古今東西落語家事典 / 東都噺家系図
~落語界の不思議を紐解く、名著二冊

杉江 松恋
2025/09/29

「すずめのさえずり」 第三回
恩人について
~佐竹雅昭さんが教えてくれた本当の強さ

古今亭 志ん雀
2025/09/26

「テーマをもらえば考えます」 第2回
名月
~世の中で最強なのは団子だよね!!

三遊亭 天どん
2025/09/30

「ずいひつかつどお」 第4回
まんまるおつきさま
~月の美しさと伝えられない想い

立川 談吉
2025/09/27

「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第3回
言霊のブーメラン
~上方落語の打ち上げよ、永遠なれ!

桂 三四郎
2025/09/25

「マクラになるかも知れない話」 第二回
栗と私
~栗から考える人生の機微

三遊亭 萬都
2025/09/24

鈴々舎馬風一門 入門物語 第15回
捨て犬のブルース (前編)
~16歳の高校生、噺家の弟子になる!

柳家 平和
2025/09/04

「令和らくご改造計画」
第二話 「集まれ! 蘊蓄おじさん」
~落語の未来を守るため、前座が立ち上がる!

三遊亭 ごはんつぶ
2025/09/12

月刊「シン・道楽亭コラム」 第5回
落語愛を、次世代へ ~あの日の感動を、息子も知った
~はじまりは、いつもあの時の「新鮮な気持ち」

シン・道楽亭
2025/09/10

鈴々舎馬風一門 入門物語 第16回
捨て犬のブルース (後編)
~『タイガー&ドラゴン』の世界へ!

柳家 平和
2025/09/05

「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第5回
夏が終わるさみしさなんて宇宙までふっとばしたい
~ハプニング満載の浪曲ライフ!

東家 千春
2025/09/03

「浪曲案内 連続読み」 第5回
君は『浪曲天狗道場』を知っているか
~浪曲の「素人のど自慢番組」がラジオを席巻した時代

東家 一太郎
2025/09/15

月刊「浪曲つれづれ」 第5回
2025年9月のつれづれ(富士実子、広沢美舟、国本はる乃、玉川奈々福、それぞれの躍動)
~銀座の地下で響く浪曲の魂

杉江 松恋
2025/09/09

「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第3回
言霊のブーメラン
~上方落語の打ち上げよ、永遠なれ!

桂 三四郎
2025/09/25

「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第11回
伝統を纏い、革新を語る 神田陽子(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー

瀧口 雅仁
2025/09/27

「令和らくご改造計画」
第一話 「危機感をあなたに」
~笑撃のストーリーが今、始まる!

三遊亭 ごはんつぶ
2025/08/12
編集部のオススメ

「酒は“釈”薬の長 ~伯知の日本酒漫遊記~」 第3回
三合目 ~京都漫遊記 〈壱〉
~幕末ロマンと伏見の名酒を楽しむ、幸せな旅

松林 伯知
2025/10/01

「マクラになるかも知れない話」 第一回
夏の日の少年
~僕たちは、小さな冒険者だった

三遊亭 萬都
2025/08/24

シリーズ「思い出の味」 第11回
食べ物が詰まった、師匠桂三金の思い出と棺桶
~焼肉は落語

桂 笑金
2025/08/17

「令和らくご改造計画」
第一話 「危機感をあなたに」
~笑撃のストーリーが今、始まる!

三遊亭 ごはんつぶ
2025/08/12

「二藍の文箱」 第3回
前座見習に師匠見習
~今年の春、弟子を取った

三遊亭 司
2025/08/02

「くだらな観音菩薩」 第2回
阿修羅
~私は良い人なので、お気軽に話しかけてくださいね!

林家 きく麿
2025/06/16

月刊「シン・道楽亭コラム」 第2回
席亭への道 ~服部、落語に沼る人生
~還暦過ぎからが人生

シン・道楽亭
2025/06/10