「声の黒船」はすでに来襲している ~厄介な未来

月刊「シン・道楽亭コラム」 第4回

声の仕事が消える日?

 声の個性を商売にしている職業のひとつに、アニメや映画の吹き替えを生業(なりわい)にしている声優という方々がいる。

 昨年来、声優らが危機感を表明している。生成AI技術を用いて、声優の声や話し方をほぼそのままに再現する生成AI声優が幅を効かせているからだ。

 生成AIによる声は、しばらく前から存在感を増している。NHKのニュース番組では、テロップに「AI生成でお伝えします」という断りが入り、自局のアナウンサーの声を束ねたAIがニュースを読んでいる。

 AIは噛まないし、風邪も引かない。「休憩時間をください」とも言わない。厳密に言えば、データを集積する電気代等はかかるが、ぶっちゃけノーギャラだ。使用者側から見れば、使い放題なのである。

 ニュース原稿をAIアナウンサーが読み上げている地方のラジオ局もある。このような負の流れに抵抗することは難しく、生成AIの声が流通すればするほど、声を売りに生業を組み立てていた面々は、「おまんま食い上げだよ、ったく!」という事態に陥る。

 さらに悪夢化する未来を阻止しようとした声優らは、いち早く声を上げた。個々が加盟する団体があるから行動も起こせる。

 同様の危機的状況が近い将来、落語界に及んだ時、当事者や関係者はどのように対処できるのだろうか。

 人間国宝・桂米朝をモデルにした桂米朝アンドロイドが誕生したのは、もう10年も前のことになる。その頃のことだ。旧道楽亭の打ち上げで、やたらからむ客がいたことを覚えている。

 「米朝アンドロイドが出てきたら、落語家も廃業ですね!」

 面白くないことを、酒の勢いを借りて2度、3度と力説する輩。対する演者は当初、反応を据え置いていたが、あまりのしつこさに「そうなるかもしれませんね」と、実にそっけなく返した。反応者は、柳家はん治師匠だった。

 あの頃よりロボット技術は格段に進み、AI技術の普及によって声の再現性はより簡易に、より高精度になった。声だけで、聞く落語は簡単に再現できる。

 でも、そんな状況を笑い飛ばすかのように、はん治師師匠は『ロボット長短』(林家きく麿師匠・作)で、逆にロボットを演じてみせる。そこには、ロボットには再現できない可笑しさ、愛らしさがあり、血の通った温かさがある。

 落語家のロボットなんていらない。