「声の黒船」はすでに来襲している ~厄介な未来

月刊「シン・道楽亭コラム」 第4回

落語家の声は守れるか?

 2025年8月現在、そのような時代になっていないことは幸いだが、演芸界隈以外の勢力が演芸のデジタル再現に乗り出してきたら落語界は無抵抗、ひとたまりもない。

 落語をそれっぽく再現され、NEO落語として認識して聞く人たちが増えたら……。

 演者は基本フリーランスで、声優らが加盟する「日本俳優連合」「日本芸能マネージメント事業者協会」「日本声優事業者協議会」といった力強い団体もない。多少はあるが、まとまりは薄く、会見を開いて抵抗を宣言する力はなさそうだ。

 可能性で考えれば、生成AI落語が登場すれば、落語家はひとたまりもない。落語の実演には著作権があるが、落語家の声そのものは著作権で保護されていないからだ。声優の声と同じだ。

 どこかに酔狂なお方がいて、結構な大枚をはたいて、AIに著作権の切れた落語の実演を学習させ、さらにあらゆるCD音源や実演をぶち込めば、落語家っぽい口調はすぐさま再現できる。

 三遊亭白鳥師匠の音声をぶち込んだ後に、『牡丹燈籠』をしゃべることを指示すれば、そうできてしまうのがAIだ。使い方によっては、厄介だ。

 とは言え、生粋の落語聞きは、そんなものにはなびかない。ただ、デジタルネイティブが、AIで再現された落語を落語と受け止めてしまえば、流れは止められない。AI生成落語が、落語の窓口になればありがたいが、そうはいかないこともあるのが世の中。

 AIによって、声優もアナウンサーも危機感を抱いている。落語家・講談師・浪曲師にとっても、人ごとではない。声の黒船が来襲しないに越したことはないが、声優の世界では対応に追われている現実がある。

 ここに記したことが杞憂で済むことを願う。ただ、演芸団体の発信力強化、政治力強化は待ったなしで必要だが。

共同席亭 渡邉寧久

(毎月10日頃、掲載予定)