NEW

捨て犬のブルース (前編)

鈴々舎馬風一門 入門物語 第15回

平成生まれが落語に魅せられた理由

 ある時、同級生の前でネタをやってるのを見ていた先生に、「菅野くんのは、まるで落語だね」と言われる。平成生まれの私には、なかなか触れる機会のない落語……。連想されるのは、着物を着た変わった名前のお爺さんたちが日曜の夕方に大喜利をやっているあの番組しかない。

 そんな興味の湧くことのない落語との出会いは、偶然にも訪れる。テレビをつけると、その日は『NHK新人演芸大賞』の放送日、今とは違ってまだ演芸部門の後に落語部門が流れていた時代。

 これも何かの縁だと思い、そのまま最後まで見続けることにした。そもそもが団体芸なのか、個人芸なのかも分からないまま見始めたので、理解できるか不安だったが、そんなことはまるで不要だった。

 座布団一枚、着物の男性がしゃべり始める。当たり障りのない話から会話劇に入ったかと思うと、男になったり狸になったり、それからまた別の男になったり……。

 そして私は気付く。「なるほど。先生の言う通り、自分がやっているのは落語だ!」 そう思うと同時に、そこには芸の素晴らしさに魅了されている自分がいたのだった。

落語に目覚めるきっかけを与えてくれた
 中学時代の恩師(中央)と校長先生(右)

退屈な日常を変えた、浅草演芸ホールでの不思議な時間

 そこから実際に生で落語を見に行きたいと思うようになる。しかし、いくら掛かるか、どこでやっているのかが分からない。

 ふと前に、父親が新聞の勧誘で落語のチケットをもらっていたのを思い出し、自分も連れて行ってほしいとお願いをする。「正月のほうが色んな人が出てて面白いから、年が明けたらな」と初めて連れて行ってもらったのが翌年、浅草演芸ホールの二之席だった。

 テレビで見たことのない人たちが次から次へと出てきては、短い持ち時間をこなして舞台袖へと捌けていく。知らない芸人を見る不思議な時間……。それが決して退屈に感じなかったのは、初めて生で見るプロの芸に感動していたからだろう。

 唯一、知っている歌丸師匠がトリで出てきた時には、「こんなに立派になった人でも、劇場に出続けてるんだ。若手も大御所も関係なく活躍してる寄席って凄い! 落語家って凄い! いつか自分もここに出たい!」と感じたのを今でもよく覚えている。

 それからというもの、寄席通いがすっかりライフワークとなり、将来の夢が具体的になっていくのにもそう時間はかからなかった。進路相談の三者面談でも「受験はせずに、落語の道に進みたい」という意志を伝えるが、「高校さえ出てくれりゃ、何やってもいいから」と親の説得を受ける。

 結局は、柔道推薦のような形で高校に進学したものの、勉強にはついていけず、部活も厳しかったことで「学校を辞めたい」と思いながら過ごす毎日。とにかく早く落語家になりたいという気持ちが日に日に増していくのであった。