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捨て犬のブルース (前編)

鈴々舎馬風一門 入門物語 第15回

派手なメガネとカチューシャの落語家は、一体何者だ?

 そんな時に、たまたま『笑点』で見たのが、新真打の昇進披露口上。柳家三三師匠や柳家甚語楼師匠と並んでいたのが、最初の師匠となる柳家獅堂である。派手なメガネに、派手なカチューシャを見て「この人は、どんな落語をするんだろう?」と、とにかく気になって仕方がない。

 かといって部活の休みもないので、高座を聴きに行く時間もない。当時はネットも今ほど普及しておらず、情報不足にモヤモヤするばかり……。『東京かわら版』だけが頼みの綱だった。

 それからしばらくして、やっと一日だけ休みを貰えた。しかも、その日が披露興行四十日間の千穐楽、奇しくも獅堂師匠がトリ。「これは行くしかない!」と、小学校時代から一番信用している友人を誘って池袋演芸場へ。

 流石は御披露目、場内満席で立ち見も出ている。また口上に並ぶ師匠方も三遊亭圓歌会長、林家木久蔵(現木久扇)師匠、柳家さん喬師匠、柳家権太楼師匠、そして後に私の大師匠となる鈴々舎馬風師匠という、今では考えられないほどの大変に豪華な顔触れ。

 そんな中でも一番印象に残ったのはその日の主役、柳家獅堂その人だった。やってることはとにかく、何だか分からない。ロッテの応援歌を唄ったり、ダダ(『ウルトラマン』シリーズの怪人)のオモチャを使って小咄をやったり。それでも、その自由な姿勢が私には誰よりも輝いて見えた。

もう迷いはない

 そこで、「どうにかして、獅堂師匠に会えないだろうか?」と考えた末、売店で『東京かわら版』の名鑑を購入し、そこにサインをしてもらおうと楽屋口に向かう。ロビーのソファには、落語協会の理事のお歴々がズラり。しかし、私は脇目も振らず、楽屋口を叩いて師匠にサインをお願いした。

 師匠にサインを書いてもらいながら「落語家になりたい」という旨を伝える私。すると師匠は、

 「君は、まず新日(新日本プロレス)に行きなさい!」

 補足をしておくと、この時は足を骨折しており、松葉杖にチンピラが着るような真っ赤なジャージ、そこにきて185cmで100kgの巨漢ときたら、そう言いたくなるのも分からなくない。それでも、なぜか自分の中では、この師匠が私を弟子にしてくれると信じて疑わなかった。

 その日の帰り道、初めての寄席の感想を友人に聞きながら、誰が一番面白かったかを尋ねる。やはりテレビで見慣れている木久蔵師匠だろうか?と思っているところに、

 「馬風師匠。とにかくキャラが立ってるし、顔がいい! あの人の弟子になれば?」

 もちろん、その頃から馬風師匠の豪快な高座は好きだったし、著書『会長への道』から伺える人柄にも憧れるものが沢山あった。しかし仮に取ってもらえたとしても、既にそれなりの年齢で、お弟子さんも沢山いるので、馬風師匠から直接教えてもらえることはあまりないんじゃないかとも思ってしまった。

 となると、やはり獅堂師匠一択、もう迷いはない。

筆者に馬風師匠への弟子入りを勧めた親友との一枚