捨て犬のブルース (前編)
鈴々舎馬風一門 入門物語 第15回
- 落語
柳家 平和
2025/09/04
夢を求めて弟子入り志願した日
また数ヶ月して、もらえた休みが偶然にも、獅堂師匠の公演日。場所は東長崎の『長崎寄席』だ。
打ち上げは会費制で、客の参加も自由、お酒は飲めなくても行かない手はない。会場である町中華の入り口で待っていると、獅堂師匠は私に気付き、「あれ、新日行かなかったの?」と声を掛けていただいた。
『長崎寄席』は、都内でもかなりの歴史がある地域寄席だが、打ち上げに高校生、また落語家志望の若者が来るのは初めてとのこと。世話人さんも、お客さんも大変によくしてくれた。お酒も入り、ご機嫌になった大人たちに根掘り葉掘り聞かれ、自分もそこで腹を決める。二度とないチャンスだと思い、その場で弟子入り志願。
「おいおい! さっそく弟子入り来ちゃったよ!」
と、師匠は喜ぶ姿を見せていたものの、帰り道で二人きりになると、その年の秋に六代目柳家小さんを襲名する三語楼師匠への入門を勧めるのだった。なぜ六代目の弟子になったほうがいいのか、私のためを思って言ってくれているのがとても伝わる。
ご案内の通り、私は後に小さんの弟子となるのだが、それでもこの時の優しさがあったからこそ、獅堂を親に選んだのだ。結果的に移籍をした今では、どちらの選択肢も私の中では正解になった。
「とりあえず高校を卒業しなさい。それまでに考えておくから」
ということで連絡先を教えていただいて、家路に就く。今思えば、この日が人生で一番緊張した日かもしれない。
16歳の高校生、噺家の弟子になる
年も明けて、どうにか二年生に上がれそうという頃、獅堂師匠から連絡があり、新宿で会うことになった。聞けば、もう一人弟子入り志願者がいて、その人は高校を卒業し、春に上京してくるそうだ。ついては、
「先に来た君を取らないのは、如何なものかということでね。二人同時だけど、取るから」
と、高校在学中の私も弟子にしていただけることを伝えられる。
2007年(平成19年)4月1日、これが私の入門記念日。とはいえ、学校も部活もあるので、休みの日以外は師匠の家に行くのことは殆どない。
たまにお宅へお邪魔しても、一緒にプロレスや特撮のビデオを見たり、帰りにオススメの書籍を貸してもらったり。弟子になれた嬉しさは間違いなくあったが、イメージとは全く違う師弟関係に戸惑っていたのを時々思い出す。
そんなことをしているうちに月日は経ち、いよいよ私も高校三年生。そして木々が色づく季節になると、もう一人の弟子は落ち葉と共に去っていったのだった。
(後編に続く)
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